(94-11-3)
title: ニーチェ入門
author: 竹田青嗣
from: ちくま新書 680 円
reviewer: 山下 健司(kenji@cs.titech.ac.jp)

ニーチェ・・・「神は死んだ」「事実など存在しない、ただ 解釈があるだけだ。」などのアフォリズムで知られ、近代最大 の思想家と見なされているが、その思想を理解するのはそんな に容易なことではない。本書は、初学者をニーチェの世界の入 口へと誘(いざな) うための入門書である。 筆者はニーチェの思想の柱として以下の3つを挙げる。まず、 『ルサンチマン批判』、次に『一切の価値の転倒』、そして、 『新しい価値の創造』である。

『ルサンチマン批判』とは、すなわちキリスト教批判である。 キリスト教は「自分のためになすな、ただ他者のためになせ。」 といい、本来自然であるはずの道徳を絶対視する。ニーチェは 言う---「ルサンチマン」によって道徳の "自然性" が反転し、 内向し、そして現世を越えたある「絶対性」と結び付く時、そ れは "うさんくさい" ものとなり、徐々に "危険" なものとな る。

『一切の価値の転倒』とは、「人間は何のために生きるのか ?」という問いに、これまでキリスト教などが与えてきた神の ためにや真理のためにといった虚構を徹底的なニヒリズムで批 判し、「いっさいは何の意味もない。」「すべては許されてい る。」という結論に達する。その上で、「偉大な人を生み出す ためにのみ人間は存在する。」という命題を提出する。

『新しい価値の創造』とは、徹底的なニヒリズムをどう克服 するかという新たな難問に対する一つの解答として「力」の思 想という概念を提出する。力の思想はニーチェ自身の考え方が 錯綜しており、なかなか難解な概念であるが、筆者は次のよう に言う。「芸術」や「恋愛」といった体験が生の本質を示唆す るように、人間の生が「超越的な根拠」などなくても可能であ ることを、逆に言えば、生のもっとも深い根拠は人間それ自身 の内的な「力」にあることを深く教えるのである。

本書が入門書として優れていると思うのは、ニーチェの思想 が時系列に沿ってではなく、その思想の系譜に沿って紹介され ている点である。これで、無用な混乱に陥ることもなく、かな り明解にニーチェの思想を理解することが出来る。とは言って も、相手は哲学の巨人。まだまだ先は長そうだ・・・