(95-2-2)
title: 野村吉三郎の無念
author: 尾塩 尚
from: 日本経済新聞社 1700 円
reviewer: 渡辺 治(watanabe@cs.titech.ac.jp)

野村吉三郎とは,太平洋戦争が始まったときの,駐米大使で ある.暗号解読の遅れから,真珠湾攻撃を開始した時刻以前に, 日本からの最後通喋をルーズベルト大統領に届けられなかった あの野村大使である.

「無念」とは,その最後通喋を届けられなかった無念では, もちろんない.外交官として日米関係打開に努めながら,結局 は,開戦に至ったことに対する無念である.本書は,開戦へと 進んでいった歴史の流れの中での,野村ら,日本外交官の努力 と苦悩について書いた本である.

歴史家の間では,「野村らの無能さが,当時の日米交渉を行 き詰まらせた一因である」と,考えられているらしい(と,こ れは本書に書いてあったことで,私は,そんなこともよく知ら ないのだが..).本書は,それに対し,いや,野村らもよく やっていたのだ.それよりもっと大きな流れが,日米開戦へと つながっていたのだ.という観点から書かれた本である.

本書が主な資料として使ったのは,開戦まで日本政府の対米 政策顧問を勤めてきた米国人,フレデリック・モアーが書いた 歴史書と,彼の未完の自叙伝である.また,大使館勤めの女中 さんの日記なども参考にしている.そのため,歴史家の目の高 さからながめた日米交渉史ではなく,個人の目のレベルでみた 外交官の苦悩が描きだされている.その意味で,読みものとし ておもしろいし,外交官の力だけでは戦争を食い止めることな どできそうにない,ということもよく伝わってくる.

では,何が戦争へと押し進めていったのだろうか?