「文章の書き方」のような本が書店に並ぶと、ついつい手に とって見てしまう。しかし、例えば本の中で「日頃から広い心 をもって物事をよく観察しましょう」などと語られても今一つ ぴんと来ない。確かにこのようなことも必要なのだが、自分の 求めている「文章の書き方」はこのような本ではないと思って しまう。 この本の第1章は「文章作法書のひろがり」となっており、 この類の本を理念・作法・技能・資料と書かれている内容につ いて4つに分類する。第2章の「自分に合った本を選び出すヒ ント」では、その中からどのような本を選び出したらよいかが 考察される。そして「自分から進んで書く文章」(文学作品・ 随想・自分史)ではなく、「必要に迫られて書く文章に上達し たい」人のために「悪文の要素を列挙して、文章の自己点検を おこなうチェックポイントを示す」ものとして本書を位置づけ ている。なるほど、先に挙げた類の本にぴんと来なかったのは 自分の書きたい文章の種類から来るものだったのか、とおおい に納得し本の内容に引き込まれていった。 「悪文」というタイトルから、悪文の例を次々と挙げてその 感想を述べるといった類の本かな、と最初は思った。このよう な本はただ感想を述べましたというだけで終わってしまうこと が多く、散漫な感じを受ける。この本はそうではない。文章を 書く際にどのような誤りが文章をわかりにくくしているのか、 そしてどのように直せばよいのかが具体的に書かれている。敬 語の間違い、修飾語の順序、句読点のうち方、主語のない文章、 等々。よく知っている内容も多い。しかしそのような知ってる ことでもはっとさせられることもある。しかもただ「おかしい」 というのではなく、なぜおかしいのか文法的にも考察されてい る。 この本の魅力の一つは筆者の考察と、それを示す例示がぴっ たり噛み合ってることにもある。例を挙げてみよう。文章の展 開のしかたには、時間順・空間順に流れを追う「追歩式」と、 ちりぢりに書きつらねる「散叙式」がある。そのうち、散叙式 は、そういう書き方を敢えて選ぶだけの文章力がないと書けな い、と作者は言う。これだけでは何か当たり前のことを抽象的 に言われた気がしてしっくりこない。しかし、そのあとに追歩 式の例として「春はあけぼの」、「夏は夜」、「秋は夕暮れ」、 「冬はつとめて」を挙げ、散叙式の例として「すさまじきもの」、 「にくきもの」、「こころときめきするもの」とやはり枕草子 を例に挙げる。散叙式だけでもぴったりあてはまる例をあげる のは難しいのに、追歩式の例も睨みながら「枕草子」を挙げる のは絶妙な例示である。このように理論的な考察とそれを裏づ ける絶妙な例示が本書の随所に見られる。この辺も読んでいて おもしろい理由であろう。 学生の論文やレポートを書く参考に、そして何よりも自分自 身の文章の上達のために何度か思いつくままに読み返してみよ うと思う。構成も主題別に細かく分かれていて、辞典のようで 引き返しやすい。 ところで、この本を読んだ私の書いたこの文章はどうだった ろうか?(隆)
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