(96-2-4)
title: イワンのばか
author: トルストイ民話集
from: 岩波文庫 460円
reviewer: 山下健司(kenji@cs.titech.ac.jp)

「イワンのばか」という言葉がロシアの民話から来ていることを 知っている人はいるだろうが、その内容を知る人は少ないのではな いだろうか? 御多分に漏れず、僕もその一人だったのでこのタイ トルを見たときに是非読んでみたいと思った。

本書はロシアに古くから伝わる民話をトルストイが編纂したもの であるが、そこにはトルストイの全思想、すなわち農本主義、無抵 抗主義、金銭否定の精神などが込められている。特に表題作である 「イワンのばかとそのふたりの兄弟」は知識主義を徹底的に扱き下 ろすもので、その穿った結末には喝采を送りたくなるが、アカデミ ズムに身を置くものとしては苦笑せざるを得ない面もある。

他にも、広大な土地を求めて走り続け息絶える男の「人にはどれ ほどの土地がいるか」の話や、トルストイ自身が敬虔なキリスト教 徒であったこととも関連する聖書に題を取った民話など計九篇が収 められている。これらの民話の中にはよく悪魔が登場するが、それ は恐怖の象徴としてではなくどこか抜けたところのある滑稽なキャ ラクターとして扱われている。これなどもロシアの土着の宗教観を 表しているように思えて興味深い。

どれもピリッとした風刺の効いた良品であるが、現代への文明批 評としても読めるのは流石である。

もし本書を読んでみたならば、次のことを自問してみてください。

あなたは頭を使って仕事をしてますか?

僕には頭の痛くなる問いですが・・・