(96-9-1)
title: ナウシカ解読ーーユートピアの臨界ーー
author: 稲葉振一郎
from: 窓社 1996年3月1日 2580円
reviewer: 豊田昌史

ナウシカとは、宮崎駿の代表作であるマンガ「風の谷のナウシカ 」(以下「ナウシカ」)の主人公の女の子である。およそ10年 前に、この作品は劇場用として映画化され、空前の大ヒットとな ったので、ご存知の方も多いと思う。映画は今でも時折テレビ放 映され、「ナウシカ」は今やほとんど国民的作品となった。経済 学部の先生によって書かれた本書は、この「ナウシカ」を1つの ユートピア文学として分析していく、異色の文芸評論である。

マンガの評論といっても、本書の扱うテーマは深くて重い。ユ ートピアが喪失し、共通の目標が見えなくなった現代の状況の中 で我々はいったい何の行動が出来るのか、いったいどこへ行けば よいのか。この渇いた問題に対して、思想の分野から果敢に挑も うとしているのである。

ソ連の目指したユートピアも解体した。戦争も各地で勃発し、 「永久平和」のユートピアもますます崩れている。しかし、その 一方で、オウムなどが示唆するように、ユートピアを目指す熱情 は全く消え去っていない。

しかしオウムの目指すユートピアは、他者をポアすることで、 その実現を目指した。逆に言えば、1つのユートピアを実現する には、どうしても他のユートピア(意見の違う他者)を否定した い誘惑に駆られる。これをオウムはストレートに実行していた。

オウムを認められないとすれば、他にもっと我々も納得するユ ートピアがあるのか? それとも、1つのユートピアを目指すの ではなく、複数のユートピアが共存する寛容な状況が「ユートピ ア」か? もしかして、ユートピアは存在せず、戦闘が自然状態 なのか?

社会の状況が、「多様化」「価値観の相違」という言葉などで 納得させようとしているが、どこかバラバラでしっくりきていな いように見える現在、本書の意義は非常に大きいと思う。