(96-10-3)
title: 疲労とつきあう
author: 飯島裕一
from: 岩波新書 1996.8.21 \650
reviewer: 嘉規香織

疲労といっても主に心の疲労について、発生に至るメカニズ ムの科学的説明と(分かっている範囲で)、慢性疲労の延長上 にある心身の病気について、取材を基にまとめられたルポルタ ージュが本書です。忙しすぎる現代社会に生きる人間の宿命と してこの心の疲労を受け止めて、それといかにうまくつきあう かというところでしょうか?

心の疲労の一つとしてうつ病が取り上げられています。厚生 省の統計でも、ここ10年間に患者の数が約2倍になっている という報告がありますし、アメリカでは「・・・過労で医者に かかる人の半数以上がうつ病患者だ」という現状だそうです。 この病の背景を「社会・心理的要素」と「生理学的要素」に分 けて説明し、今日この病が増加しているのは前者の原因による と分析しています。そのなかで「人間的かかわり、人間的つき あいがうすくなったなかで、社会も企業も、じつに単純なモノ サシで『役に立つ人と役に立たない人』を区別する傾向がある 。・・・精神的に捨てられた人が存在する」という指摘には、 学生の教育という事柄にもかかわっている評者としては、うつ 病の分析を越えて考えさせられるところがありました。

心の疲労・病が身体症状として現れる心身症は、原因と結果 が一見離れているという複雑さのために、「現在の診療科の垣 根を越えた治療態勢が必要とされている」そうです。過敏性腸 症候群、消化性潰瘍、ある種の頭痛、円形脱毛症からぜんそく、 摂食障害(いわゆる過食症、拒食症)等々、身近(?)に聞 いたことのあるものから、最近特に話題になっている問題まで、 実に様々なものがこの中に入っています。ここでは節立てて 述べてはいませんが、以前よく耳にした自立神経失調症なんて いうのも心身症の1つだと思われてしかたがありません。

 この他に、睡眠の問題とアルコール依存の問題が述べられて います。ここの所では評者が常々思っていたことが「『寝つき がいいから』と、酒にたよるのは危険だ。アルコールには脳の 活動をおさえる作用があり、入眠を促すが、量がふえ、依存症 に陥るケースが後を絶たない、と多くの精神科医が指摘する」 という風に述べられていました。心当たりのある人達は是非読 んでみることを勧めます。