デデキントという名は数学史に疎遠な方にはあまり聞き覚え がないかもしれない。しかし、その著作が岩波文庫に収められ た数少ない自然科学分野の中の一冊であるということだけから 類推しても偉大な数学者だということが分かることだろう。本 書はれっきとした専門書である。だが、数学の予備知識はほと んど必要としない。 本書は『連続性と無理数』と『数とは何か、何であるべきか』 の2篇から成っている。前者は今日「デデキントの切断」で知 られる実数の定義を形式的に取り扱った記念すべき論考であり、 後者は集合論的に自然数の基礎付けを行い、その上で演算を定 義したこれまた重要な論考である。特に後者は172もの命題(定 義、公理)から成り、その撤底した公理論的アプローチには瞠 目させられる。とても100年以上も前に書かれたものとは思え ない程である。 そもそも数論といえば、ピタゴラスの時代から無理数の存在 が知られ、ユークリッドは『原論』の中で素数が無限個存在す ることの証明を行うなど数学の中でも長い歴史を誇るが、それ が形式的に定義され、議論されだしたのはデデキントをもって その嚆矢とする。その著作が今をもって全く色褪せないのは解 説の結語にあるように、古典の古典たる所以なのだろう。 (空谷子)
|