賭けの分類

本サブサイトで扱う「賭け」は、通常考えられているギャンブルよりは広く捉えて、「金銭を利得とするゼロサムゲームである」と定義しました(賭け・ギャンブル・ゲームの定義)。ここでは「賭け」をいくつかに分類し、それを取り扱う学問分野について考えてみます。

不確実性があるか、ないか

このサイトでは賭けを「ゼロサムゲーム」であるとしましたが、一般に賭けとは「運や不確実性を伴って利得が変化するゲーム」と考えられるでしょう。このように不確実性があるか、ないか、は賭け・ギャンブル・ゲームを分類する最大の要素であると思います。

  • 不確実性がない賭け
    • 将棋、囲碁、オセロ etc...
  • 不確実性がある賭け
    • ブラックジャック、バカラ、スロットマシンなど、カジノにある遊戯
    • 麻雀、バックギャモン、ブリッジ、ポーカー
    • 競馬、宝くじ、競艇

不確実性がない賭けは、ここで「賭け」とは呼んでいるものの、一般には「ゲーム」と呼ばれることが多いでしょう。このような不確実性がない完全情報ゲーム(同時に行動することはなく、相手が何を選んだかがすべて分かるもの)は「組み合わせゲーム(combinatorial game)」や「game with no chance」などと呼ばれており、数学や計算機科学の分野で研究されています。ざっくり言うと「数学者が大好きな分野」です。参考となる書籍とページを以下に挙げておきます。

不確実性があるかないかで、学問分野は大きく分かれています。決定的な違いは「確率」が使われるかどうかです。両方を取り扱う研究者はあまりいません。なので、このサイトでは欲張って両方の話題を取り上げようと考えていますが、それでも不確実性がないゲームはやや専門外でもあり、話題は少なくなるでしょう。

これ以降では、一般に「賭け」や「ギャンブル」と言われる「不確実性のある賭け」についての分類を考えます。

不確実性のある賭けの分類(1):勝つチャンスと利得への関与

Ziemba, Brumell and Schwartz (1986) はギャンブルを2つの観点から計4種類に分類しています。1つ目の観点は、「勝つチャンスが完全に運によるか、技術を要するか」のどちらであるか。もう1つの観点は「勝利による利得が、完全に運に依存するもしくは定まっている(技術によって増減しない)か、技術によって利得が増加するか」です。表にすると以下のようになります。


ギャンブルの分類( Ziemba, Brumell and Schwartz (1986) )

宝くじもナンバーズも番号はランダムに出るので、勝つチャンスは完全に運に依存していて技術を要しません。ただし、一般の宝くじの賞金は技術を持ってしても増加しませんが(そもそも、ほとんどくじを選べない)、ナンバーズやロトは、自分が選ぶ番号によって賞金を変化させる可能性があります。したがって勝利による利得の分類は、宝くじとロト・ナンバーズでは異なると言えるでしょう。ブラックジャック、ポーカー、バカラ、競馬などは技術によって勝つチャンスも利得も増加する可能性があります。右下のセルに分類されるこれらのギャンブルが、私達が一般にギャンブルと呼ぶもののほとんどを包括しています。

利得も勝つチャンスもどちらも完全に運によるものであれば、それを分析する動機は少なくなるでしょう。本サイトで扱うのは、勝つチャンスか利得の少なくとも1つが技術により増加すると考えうるものでしょう。

不確実性がある賭けの分類(2):賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)

wikipediaの「賭博」の項目では、大谷實『新版刑法講義各論[追補版]』(成文堂、2002年)533頁を参照して「賭ける対象となる勝負事の結果に当事者として関与できるかどうか」という視点から賭博を賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)に分類しています。

賭博とは、賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)の二つを合わせた言葉である。賭事と博戯の違いは、賭ける側の人間が、賭ける対象となる勝負事の結果に当事者として関与できるか否かである。

賭事(とじ) – 勝負事の結果に参加者が関与できないもの
博戯 – 勝負事の結果に参加者が関与できるもの

公営競技、「野球賭博」「富くじ(宝くじ)」「ルーレット」、「バカラ」などは賭事であり、「賭け麻雀」「賭けゴルフ」「賭けポーカー」などは博戯である。「クラップス」のように、一つのゲームで賭事と博戯が混在[3]する場合もある。

wikipedia「賭博」の項から

この「勝負事の結果に参加者が関与できる」ということと、(1)の「勝つチャンスや運が技術により増加する」ということは、かなり近い概念ですが、違いはあります。競馬を考えてみましょう。(1)のZeimba達の分類では、競馬はどの馬に賭けるかによって、賭けた者の当たる確率や利得を変化させることができます。(2)の分類では、競馬の結果には参加者は関与できないので、博戯になるのでしょう。

不確実性がある賭けの分類 (3):参加者の人数

他の文献には見当たりませんが、参加者が多数か少数かは、賭けを分類するのに重要な要素であると私は考えています。

カジノなどで扱われる賭け、ブラックジャック、ルーレット、バカラなどは賭けの参加者が比較的少数です。このような問題は、確率や統計などの数学、心理学や意思決定論などがそれを取り扱う学問分野になるでしょう。

これに対し競馬などは、賭けの参加者が多数です。これを取り扱うには経済学で考える「市場」の概念が必要であると考えています。経済学・ファイナンス・金融工学などがこれを取り扱う学問分野になるのではないでしょうか。もちろん、参加者が少数である賭けを取り扱う確率や統計などの数学、心理学も必要となるため、もっとも複雑でエキサイティングな分野ではないでしょうか。本サイトでも、この分野を取り扱うことが多くなると思います。

不確実性がある賭けの分類(4):主催者・胴元は賭けをするか?

「賭け」にはたいてい主催者がいて、それを「胴元」などと呼んだりします。カジノの主催者はオーナーで、日本の中央競馬ではJRAです(もっともJRAは執行機関であり、本当の主催者は国であるともいえますが)。宝くじの場合には、みずほ銀行を主催者と考えるよりは、自治体などを主催者と考えたほうが良いでしょう。多くの場合、法律で公認のギャンブルは公営で、ギャンブルの主催者は公的機関であったりします。

主催者の収入が運に依存するかどうか、言い換えると主催者自身がギャンブルをするかどうかは賭けを分類する重要な要因です。多くのギャンブルの主催者が公的機関であることを考えると、公的な収入が運に左右されるかどうかに対応するので、これは経済学的にも政策的にも重要な問題です。

カジノにおける多くのギャンブルでは、主催者の収入も運に依存します。例としてルーレットを考えてみましょう。アメリカンルーレットの場合、数字の数は0と00を含めて38個で、1つの数字に賭けて当たった場合の払い戻し倍率は36倍です。仮に全員が(「赤」[黒」とか「奇数」「偶数」のような賭け方ではなく)1つの数字に賭けるような賭け方をすれば、主催者の期待収入は
賭けられた金額×(38分の2)
となります。しかし、これはあくまでも期待値で、確実な収入ではありません。たまたま、参加者がルーレットの数字を次々に当てた場合は、主催者収入はマイナスになります。主催者の収入が、参加者と同様にルーレットの目に左右される点では、主催者も賭けをしていると考えられるでしょう。

カジノに対して、宝くじや日本の競馬はパリマチュアル(parimutuel)方式と呼ばれ、賭けられたお金から一定の額を控除した後、勝者にお金を配分するという方法をとっています。このような方式では主催者の収入は賭けられた金額で確定し、運には左右されません。例として、日本の競馬を考えてみましょう。日本の中央競馬では、賭けられたお金の(約)25%を主催者が控除した後、その金額を勝者に配分することになっています。主催者の収入は
                 賭けられた金額×25%
となります。ルーレットと異なる点は、これは確実な収入であり、本命が来ようが、穴馬が来ようが、どの馬が1着になったかには関係なく、主催者の収入は賭けられたお金にのみ依存します。ルーレットでは、主催者の収入が出た目に依存するのとは対照的に、この場合は、主催者は賭けはしていません。

ルーレットの38分の2も、日本の競馬の25%も、主催者の控除率と呼ばれるものですが、その内容は、このように少し異なります。

主催者が賭けをする方式でも、回数が多くなれば「大数の法則」に従って、収入は期待金額に近づくことが予想されます。したがって、この場合は賭けの回数が多くなることが主催者の収入を安定させるためには大切です。ルーレットにおいて、賭けられるお金の総額が1億円のときに、1億円が1回かけられるのと、100円が1万回賭けられるのでは、後者のほうが主催者には好ましく(リスクが少なく)なります。日本の競馬のようにパリマチュアルシステムでは、この2つに差はありません。

なお、日本の競馬と異なり、イギリスの競馬ではブックメーカー方式と呼ばれる主催者自身が賭けをする形もとられています。

賭け・ギャンブル・ゲームの定義(本サイトにおける)