クールノー競争とベルトラン競争関連のページ

クールノー競争とベルトラン競争に関して来られる方が多いので、関連する資料をまとめておきます。

初歩から学ぶゲーム理論-web講義:関連ページ

オンライン講義

2020年東京都立大学「ゲーム理論1」オンライン講義(youtube):コロナ対応

講義資料(ゼミナールゲーム理論入門:第5章)

首都大学東京「ゲーム理論1」の講義資料から、テキストである「ゼミナールゲーム理論入門」の第5章講義する部分のスライドです。テキストの内容に沿っています。クールノー競争、ベルトラン競争、シュタッケルベルグ競争に相当する部分です。
数値例と演習になります。文字式による一般的な計算はORセミナーのスライドのほうがいいです。

講義資料(ORセミナー)

「技術者のためのゲーム理論の基礎(2)-初歩から学ぶクールノー競争とベルトラン競争」スライド

  • 2015年のORセミナーでの講演を修正したものです。理系の技術者を対象にクールノー競争やベルトラン競争を講義し、そこから経営戦略論や産業組織論を学ぶことにつなげようというねらいです。ORセミナー2014年「技術者のためのゲーム理論の基礎(1)」のゲーム理論入門はこちらにあります。

クールノー競争とベルトラン競争入門(4):図と最適反応関数で理解するクールノー競争

クールノー競争の価格・生産量と社会的総余剰では、2社のクールノー競争におけるクールノー均衡を求める方法を説明しました。ここではそれを「最適反応曲線」(反応曲線、最適反応関数)と呼ばれる図で説明し、ナッシュ均衡との関連をより明確にします。

モデルの設定(再掲)

クールノー競争の価格・生産量と社会的総余剰で説明した設定を再掲します。そこから読んでいる方は、ここは飛ばして構いません。

  • 同じ製品を販売している企業AとB。
  • AとBの生産量をそれぞれ\(x_A,x_B\)とする。
  • 市場全体の生産量を\(x=x_A+x_B\)とし、その価格\(p\)は$$p=a-bx$$で与えられるとする。
  • 製品1単位の費用(限界費用)はAもBも\(c\)で同じとする。
  • 企業Aの利益を\(\pi_A\)とおく。$$\pi_A=px_A-cx_A$$。
  • 企業Aの利益\(\pi_A\)を最大にする\(x_A\)を考える。\(p=a-bx\)を代入し、\(x=x_A+x_B\)に注意すると\[ \begin{align} \pi_A &=\{a-b(x_A+x_B)\}x_A-cx_A\\&=-bx_A^2-bx_Ax_B+(a-c)x_A \tag{1} \end{align}\]とる。
  • 式(1)を最大にする\(x_A\)を求めるため、\(x_A\)で微分して0になるところを求める。(1)を\(x_A\)で微分すると、\(-2bx_A-bx_B+(a-c)\)。したがって\[-2bx_A-bx_B+(a-c)=0\]を解けば良く、これより\[x_A=-\frac{1}{2}x_B+\frac{a-c}{2b} \tag{2}\]となる。
  • 企業Bの利益を\(\pi_B\)とおく。$$\pi_B=px_B-cx_B$$。
  • 企業Bの利益\(\pi_B\)を最大にする\(x_B\)を求めると、\[x_B=-\frac{1}{2}x_A+\frac{a-c}{2b} \tag{3}\]となる。
  • 式(2)と式(3)を、それぞれ「企業Aの最適反応関数」「企業Bの最適反応関数」と呼びます。
  • 式(2)は企業Bの生産量\(x_B)\が与えられたときに、企業Aの利益を最大にする企業Aの生産量を表しています。
  • 式(3)は企業Aの生産量\(x_A)\が与えられたときに、企業Bの利益を最大にする企業Bの生産量を表しています。

最適反応関数を図で書く-最適反応曲線

上記の最適反応関数を横軸に(x_A)、縦軸に(x_B)にした図(グラフ)に描いてみます。まず式(3)の企業Bの最適反応関数から考えてみます(⇒なぜなら、左辺は縦軸、右辺は横軸のグラフに慣れている人が多いからです)。式(3)のグラフを書いてみると、以下のようになります。

企業Bの最適反応曲線

この式は切片が\(\frac{a-c}{2}\}で、傾きが-1/2の右下がりの直線になります。これは企業Aの生産量が与えられると、そのとき企業Bの利益が最大になる生産量がいくつであるかを示す曲線になるわけです。企業Bは、もし企業Aの生産量が決まれば、自分がもっとも利益が高くなる生産量が分かるわけですが、企業Aの生産量は決まっていません。そこでこれに式(2)の企業Aの最適反応曲線を描き、重ねてみます。

 

企業Aと企業Bの最適反応曲線

企業Aは、企業Bと縦軸と横軸が逆になりますね。切片と傾きは同じです。企業Aは、もし企業Bの生産量が決まれば、自分の利益を最大にする生産量が分かるわけですが、企業Bの生産量は決まっていません。

企業Bの生産量が決まらないと企業Aの生産量が決まらず、企業Aの生産量が決まらないと企業Bの生産量が決まらない。そこで「お互いが最適反応となる生産量の組」を選び合うことが答となると考えます。これがナッシュ均衡、またはクールノー均衡(またはクールノー=ナッシュ均衡)と呼ばれるものです。

ナッシュ均衡は20世紀半ばにゲーム理論で考えられたものですが、寡占市場の分析に限ると、それより100年以上も前にクールノーが上記の解を考えていたことによるため、このように呼ばれます。

お互いが最適反応となる生産量の組は、両方の直線が交わった点です(次の図)。この点は、式(2)と式(3)の連立方程式を解くことによって求められます。これを求めると、\[x_A=x_B=\frac{a-c}{3}\]となります。

 

クールノー均衡

以下も参考にして下さい。

クールノー競争とベルトラン競争入門(3):クールノー競争の価格・生産量と社会的総余剰

独占市場における価格と生産量の決定を理解したとして、ここでは2社のクールノー競争の価格と生産量の決定、および社会的総余剰の計算について説明します。

クールノー競争の価格と生産量の決定:モデル

ここでは同質財を販売している2社の生産量競争を考えます。一般にクールノー競争と呼ばれるのは、このモデルです(不完全競争市場の分類)。

  • 企業AとBが同じ製品(同質財)を販売するとします。AとBの生産量をそれぞれ\(x_A,x_B\)とし、AとBは\(x_A,x_B\)を決定するとしましょう。
  • 市場全体の生産量を\(x=x_A+x_B\)に対して、その価格\(p\)は$$p=a-bx$$で与えられるとします。
  • ここで製品を1単位の費用(限界費用)はAもBも\(c\)で同じであり、生産量にかかわらず一定とします。簡単にするため固定費は考えません。
  • AとBは利益を最大にすると考えます。AとBは、生産量\(x_A、x_B\)をいくらにするでしょうか。

問題の解法

問題は以下のようにして解くことができます。

  • 企業Aの利益を\(\pi_A\)とおく。ここで(利益)=(収入)-(費用)であり、収入は(価格)\(\times\)(生産量)、費用は(限界費用)\(\times\)(生産量)となります。したがって$$\pi_A=px_A-cx_A$$となります。
  • この\(\pi_A\)を最大にする\(x_A\)を考えます。そこで\(p=a-bx\)を代入し、さらに\(x=x_A+x_B\)に注意すると\[ \begin{align} \pi_A &= px_A-cx_A \\ &=(a-bx)x_A-cx_A \\&=
    \{a-b(x_A+x_B)\}x_A-cx_A\\&=-bx_A^2-bx_Ax_B+(a-c)x_A \tag{1} \end{align}\]となります。
  • この式(1)を最大にする\(x_A\)を求めるには、ざっくり言うと\(x_A\)で微分
    (正確には偏微分)して0になるところを求めれば良い。(1)を\(x_A\)で微分すると、\(-2bx_A-bx_B+(a-c)\)となります。したがって\[-2bx_A-bx_B+(a-c)=0\]を解けば良く、これより\[x_A=-\frac{1}{2}x_B+\frac{a-c}{2b} \tag{2}\]となります。
  • 式(2)は、企業Aの最適反応関数と呼ばれます。式(2)は\(x_B\)が与えられたときに企業Aの利益を最大にする企業Aの生産量を表しています。したがって、企業Bの生産量が決まれば、企業Aとの最適な生産量(答)が決まるのですが、企業Bの生産量がいくらになるか分かりません。そこで企業Bが利益を最大にする生産量を同様に求めてみます。
  • 企業Bの利益を\(\pi_B\)とおきます。$$\pi_B=px_B-cx_B$$であり、企業Aの場合と同様に\(p=a-bx\)を代入して計算し、$$\pi_B=-bx_B^2-bx_Ax_B+(a-c)x_B$$を得ます。さらに\(x_B\)で微分して0になるところを求めると、\[x_B=-\frac{1}{2}x_A+\frac{a-c}{2b} \tag{3}\]となります。
  • この式(3)は、企業Bの最適反応関数と呼ばれます。企業Aと同様に\(x_A\)が与えられたときに、企業Bの利益を最大にする企業Bの生産量を表しています。
  • ここで、企業Aは企業Bの生産量が分からなければ、利益を最大にする生産量が分からず、企業Bは企業Aの生産量が分からなければ、利益を最大にする生産量が分かりません。ここでゲーム理論のナッシュ均衡の概念により解を求めるわけです。ナッシュ均衡は、お互いが最適反応戦略を選び合うような戦略の組み合わせで、ここでは式(2)と式(3)を同時に満たす\(x_A\)、\(x_B\)となります。
  • 式(2)と式(3)を同時に満たす\(x_A\)、\(x_B\)は、これらを連立方程式で解くことによって求められます。式(3)の\(x_B\)を式(2)に代入して計算すると\(x_A=-\frac{1}{4}x_A+\frac{a-c}{4b}\)となり、これから\(x_A=\frac{a-c}{3b}\)を得ます。またこれを式(2)に代入して、\(x_B=\frac{a-c}{3b}\)を得ます。
    このときの価格は\[p=a-bx=a-b(x_A+x_B)=\frac{a+2c}{3} \]となります。
  • このとき企業Aの利益は\[ \begin{align} \pi_A &= px_A-cx_A =(p-c)x_A\\ &=\left(\frac{a+2c}{3}-c\right)\left(\frac{a-c}{3b}\right)=\frac{(a-c)^2}{9b} \end{align}\] となります。同様に企業Bの利益も同じになります。

まとめますと、クールノー競争における企業Aと企業Bの生産量は\(x_A=x_B=\frac{a-c}{3b}\)となります。これをクールノー均衡と呼びます。クールノー均衡における価格は\(p=\frac{a+2c}{3}\)、各企業の利益は\(\pi_A=\pi_B=\frac{(a-c)^2}{9b}\)となります。

消費者余剰、社会的総余剰

独占市場における、消費者余剰、生産者余剰、社会的総余剰について示します。

市場全体の取引量が\(x=x_A+x_B=\frac{2(a-c)}{3b}\)であることに注意すると、上記で求めたクールノー競争の価格と生産量と企業の限界費用は、以下の図で示すことができます。

クールノー競争における生産量・価格・社会的総余剰

消費者余剰は、図の青色で示された部分の三角形です。

三角形の底辺の長さは\(\frac{2(a-c)}{3b}\)、高さは\[ a-\frac{a+2c}{3}=\frac{2(a-c)}{3} \]ですから、三角形の面積は\[ \frac{1}{2} \times\frac{2(a-c)}{3b} \times \frac{2(a-c)}{3}=\frac{2(a-c)^2}{9b} \]となります。

企業の利益は、図の緑色の部分の長方形の面積です。

長方形の高さ(価格-限界費用)は、\(\frac{a+2c}{3}-c=\frac{a-c}{3}\)、ヨコの長さは\(\frac{2(a-c)}{3b}\)ですので、長方形の面積は\[\frac{a-c}{3}\times\frac{2(a-c)}{3b}=\frac{2(a-c)^2}{9b}\]となります。先に求めた企業の利益を合計した値(\(\pi_A+\pi_B\))と一致することがわかりますね。これを生産者余剰とも呼びます。

社会的総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の総和です。したがって社会的総余剰は
\[\frac{2(a-c)^2}{9b}+\frac{2(a-c)^2}{9b}=\frac{4(a-c)^2}{9b}\]です。

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クールノー競争とベルトラン競争入門(2):独占市場の価格・生産量と社会的総余剰

クールノー競争は、2社以上の企業が利益を最大化するように生産量を決める生産量競争です。その考え方の基本となるのは、企業が1社のときの独占市場の生産量決定です。1社のときが分からないで、2社以上の場合が分かることがあろうか。いやない。(反語)。ここでは独占市場において、生産量と価格がどのように決定されるかを示します。

独占市場の価格と生産量の決定:モデル

ここでは以下の例を考えます。

  • 企業Aがある製品を独占的に販売しているとし、その生産量\(x\)を決定するとしましょう。
  • 生産量\(x\)に対して、その価格\(p\)は$$p=a-bx$$で与えられるとします。
    • ここでは生産量=需要量(取引量)となるように価格が決定されるとします。すなわち在庫は考えず、すべての生産量が売り切るように価格がつくと考えます。
    • したがって、たくさん生産すると取引量は多いのですが、価格が下がり、儲かりません。価格を高くしようとすると少なく生産しなければならず、その生産量が少なすぎても儲かりません。すなわち、価格と生産量の間にトレードオフがあり、そのもとで、企業Aは生産量\(x\)を決定する問題を考えます。
    • なお「価格が\(p\)のとき、需要を\(x\)とすると、\(x=\alpha – \beta p\)となる」のように、需要関数が与えられる場合もあります。その場合は、 生産量=需要量(販売量)となることから、\(x\)を生産量と考えて、\(p=(\alpha/\beta)-(1/\beta)x\)のように\(p\)の式に変換すれば良いわけです。\(a=\alpha/\beta\)、\(1/\beta\)とおくと、上記の設定になります。
  • ここで製品を1単位売る費用(限界費用)は\(c\)とし一定とします。簡単にするため固定費は考えません。
  • 企業Aとは利益を最大にするように、この製品の生産量\(x\)を決定するとします。\(x\)はいくらになるでしょうか。

問題の解法

問題は以下のようにして解くことができます。

  • 企業Aの利益を\(\pi\)とおく。ここで(利益)=(収入)-(費用)であり、収入は(価格)\(\times\)(生産量)、費用は(限界費用)\(\times\)(生産量)となります。したがって$$\pi=px-cx$$となります。
  • この\(\pi\)を最大にする\(x\)を求めれば良いわけです。そこで \(p=a-bx\) を代入して\(x\)だけの式にすると\[ \begin{align} \pi &= px-cx \\ &=(a-bx)x-cx \\&=-bx^2+(a-c)x \end{align}\]となります。
  • この式を最大にする\(x\)を求めるには、ざっくり言うと\(x\)で微分して0になるところを求めれば良い。\(-bx^2+(a-c)x\)を \(x\)で微分すると、\(-2bx+(a-c)\)となります。したがって\[ -2bx+(a-c)=0 \]を解けば良く、これより\(x=\frac{a-c}{2b}\)が求める生産量(最適生産量)となります。
  • このときの価格は、\(p=a-bx^*=\frac{a+c}{2}\)となります。
  • このとき企業の利益は\[ \begin{align} \pi &= px-cx =(p-c)x \\ &=(
    \frac{a+c}{2}-c)(\frac{a-c}{2b})=\frac{(a-c)^2}{4b} \end{align}\] となります。

消費者余剰、社会的総余剰

独占市場における、消費者余剰、生産者余剰、社会的総余剰について示します。

上記で求めた独占市場の価格と生産量と企業の限界費用は、以下の図で示すことができます。

独占市場における消費者余剰・生産者余剰

消費者余剰は、図の青色で示された部分の三角形です。

(なぜこの部分が消費者余剰になるかは、ミクロ経済学のテキストなどを参照してください。なお拙著「ゼミナールゲーム理論入門」の5章にも、独占やクールノー競争での消費者余剰や社会的総余剰の数値例による初歩的な解説があります)。

三角形の底辺の長さは\(\frac{a-c}{2b}\)、高さは\[ a-\frac{a+c}{2}=\frac{a-c}{2} \]ですから、三角形の面積は\[ \frac{1}{2} \times\frac{a-c}{2b} \times \frac{a-c}{2}=\frac{(a-c)^2}{8b} \]となります。

企業の利益は、図の緑色の部分の長方形の面積です。

なぜかと言うと、製品1単位の利益は長方形の高さ(価格-限界費用)になり、これに長方形のヨコの長さ(取引量)をかけたものが利益となるからです。なお

長方形の高さ(価格-限界費用)は、\(\frac{a+c}{2}-c=\frac{a-c}{2}\)、ヨコの長さは\(\frac{a-c}{2b}\)ですので、長方形の面積は\[\frac{a-c}{2}\times\frac{a-c}{2}=\frac{(a-c)^2}{4b}\]となります。先に求めた値と一致しますね。これを企業の生産者余剰とも呼びます。

社会的総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の総和です。したがって社会的総余剰は
\[\frac{(a-c)^2}{8b}+\frac{(a-c)^2}{4b}=\frac{3(a-c)^2}{8b}\]です。

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クールノー競争とベルトラン競争入門(1):不完全競争市場

クールノー競争とベルトラン競争って何なのか?って、話から始めます。計算から行きたい人は独占市場の価格決定へ行くと良いでしょう。

完全競争市場と不完全競争市場

経済学では、最初に完全競争市場(perfectly competitive market)という市場を学びます。そこでは

  • 消費者や企業は多数いて、価格受容者(その行動によって価格が変化しない)
  • 企業は価格を所与とし、生産量を決めて、利益を最大化する
  • 企業は限界費用と価格が等しくなるように生産量を決める
  • 分析道具は、需要曲線と供給曲線 (部分均衡)で、需要曲線と供給曲線が交わったとこで価格と取引量が決まる

とされています。これは「古典的な」市場理論と言えるもので、経済学の考え方の基礎となります。農業なんかだとこの考えは当てはまるし(キャベツの生産者は、自分の生産によって、市場のキャベツの価格が変化するとは思わないでしょう)、経済学が作られた頃は企業とか今のようではなかったし、このように単純化すると経済の問題をシンプルに扱うことができるのでうれしいっす。しかし、

企業は価格を所与として、生産量を決めて、利益を最大化する

という部分は、現在の経済ではとても問題となります。実際に、現在の多くの市場では、企業は価格を所与だと考えているとは思わないでしょう。自分自身が価格を決めたり、もしくは自身の生産が価格に影響を及ぼすことを考慮したりして、意思決定をする場合が多いと思われます。

そこで近年の経済学の研究では、不完全競争市場(imperfectly competitive market)を考えることが多いです。これは企業の数が1つ(独占市場)だったり、2つ(複占市場)だったり、少数(寡占市場)だったりする市場です。ここでは企業を価格決定者であると考え、企業の行動によって価格が決まります。

企業が1つの独占市場の問題は簡単でしたが、2つ以上のときは企業の相互作用がどのように価格や生産量に影響を及ぼすかを考えなければなりません。このとき中心となるのはゲーム理論であり、これによって不完全競争市場は大きく発展し、産業組織論(政策が企業の行動にどのように影響を及ぼす考えたりする)国際経済学などの分野に大きく応用され、近年は経営戦略にも応用されるようになったのでした。

クールノー競争とベルトラン競争

ざっくりいうと、2社以上の企業の不完全競争市場を扱うモデルのうち、クールノー競争は企業が生産量を決定するモデル(生産量競争)で、ベルトラン競争は企業が価格を決定するモデル(価格競争)です。

クールノー競争:各企業は生産量を決定する(生産量競争)
ベルトラン競争:各企業は価格を決定する(価格競争)

このとき各企業が生産する財が同質財か、異質財か、でモデルが大きく分かれます。

同質財の市場と言うのは、すべての企業が生産する財が全く同じで、消費者は企業ごとの財の区別をしません。生産量競争では、全企業が生産した財の合計(=市場全体の生産量)によって財の価格が決まり、その価格はすべての企業の財の価格になると考えます。価格競争では、一番安い価格をつけた企業からすべての消費者は財を買うと考えます。各企業の財は1つの市場、1つの需要曲線で表現されます。

異質財の市場は製品が差別化された市場です。各企業ごとに別の市場があり、相手企業の価格や生産量は、自企業の製品の需要量に影響を及ぼしますが、その需要関数は各企業ごとに与えられます。

通常、クールノー競争と言うと同質財のクールノー競争を指します。これに対し、ベルトラン競争は同質財と異質財の両方を指すことが多いようです。

クールノー競争 vs ベルトラン競争

ゲーム理論では、各プレイヤーが行動するタイミングは、ゲームを決める重要な要素です。上記のモデルは、企業は、相手企業の価格や生産量を知らずに、自社の価格や生産量を決定すると考えています。言わば「同時に」決定すると考えています。

これに対して、各企業が逐次的に価格や生産量を決定するモデルもあります。2社の生産量競争で、1社が先に生産量を決定し(先手)、それを見てもう1社が生産量を決定するモデルはシュタッケルベルグ(Stackelberg)競争と呼ばれます。

クールノー競争:2社が同時に生産量を決める
シュタッケルベルグ競争:2社が先手と後手で逐次的に生産量を決める

2社が先手と後手で価格を決めるモデルもありますが、特に名前はついていません。
※経済学では特に名前はついていませんが、情報学やORなどでは最近、2人ゲームの先手と後手のあるゲームをすべて「シュタッケルベルグゲーム」と呼ぶことが多いです。

次は独占市場の価格・生産量と社会的総余剰へ。