ゲーム理論の中で近年盛んに研究されているオークション理論についてのページです。オークション理論の紹介、さまざまなオークションの紹介、オークションのビデオ、私の講義資料(スライド)、本の紹介、などの情報があります。ネットオークション攻略にはあまり関係ないかも。
2020年のノーベル経済学賞は「オークション理論への貢献」ということでMilgorm氏とWilson氏が受賞しました。 これを受けてページを大幅に加筆しました!
なお拙著、日経文庫「ビジュアルゲーム理論」や「ゼミナールゲーム理論入門」にも、オークション理論の簡単な説明があります。
オークションの理論と研究
オークション理論は、Vickrey (1961)の研究などが契機となり、1980年代から情報の経済学やゲーム理論の中で発展した理論です。Myerson (1981)、 Milgrom and Weber (1982)などが初期の代表的な論文です。21世紀に入り、そのMilgromがアメリカの周波数オークションの設計に関与して成功をおさめたことや、ネットオークションや電子商取引の発展により、計算機科学や情報科学の分野でも盛んに研究がなされるようになったことから、オークション理論は大きく発展しました。
近年は、その理論を基礎にして、実験経済学の手法を用いた実験や計量経済学の手法を用いた実証分析も行われ、オークション研究は、ますます盛んになっています。2020年のノーベル経済学賞は「オークション理論への貢献」ということでMilgorm氏とWilson氏が受賞しました。
コンテンツ
- セカンドプライスオークションと収益等価定理
- オークションの種類(このページ内)
- 勝者の呪い、独立私的価値と共通価値
- オークション理論の本
- オークションの動画(このページ内)
- オークションの教材(このページ内)
- ノーベル経済学賞でわかった、「ヤフオク!」を100%使いこなす方法(講談社「現代ビジネス」2020.10.27記事)
オークションの種類
オークション理論は、さまざまな理論で構成されています。まずオークションの形式によって大きく3つに分けることができます(これらのオークション形式については後に詳しく説明します)。
(1)単一財のオークション
絵画や骨董品のオークション、マグロの競り、中古車や不動産など、1つの財を取引するオークションを単一財(single unit)のオークションと呼びます(1つの財を売る場合)に対する理論。単一財オークションはオークション理論の基本となるもので、大きく2つの形式に分けられます。1つはサザビーズやクリスティーズのようなオークションハウスでのオークションや野菜や魚の市場での「競り」のように、参加者がお互いの入札を観察しながら動的に行動するもので、公開オークション(open auction)と呼ばれます。公開オークションは、マグロや絵画の競りのように、値段が上昇していく競り上げ式オークション(ascending auction)が一般的で、オークション理論では英国式オークション(English auction)とも呼ばれます。これに対し、公開オークションには価格が下降していく競り下げ式オークション(descending auction)もあります。これは花市場が代表的な例で、その発祥がオランダであることからオランダ式オークション(Dutch auction)と呼ばれています。
公開オークションに対して、希望価格を紙などに書いて主催者に渡すなど、他者に価格が分からないようにして入札を行うオークションは、封印オークション(sealed bid auction)と呼ばれます。大雑把に言えば、公開オークションは「競り」に、封印オークションは「入札」に対応するものです。封印オークションは、最高額入札者が自分の価格(第1位価格)で購入する第1価格オークション(first price auction)が一般的で、古書や古文書の入札などがこれに対応します。これに対して、最高額入札者が自分の次に高い価格(第2位価格)で購入する第2価格オークション(second price auction)と呼ばれるものがあり、オークション理論では重要な役割を果たしています。このオークションは動的な「競り」である英国式オークションを、静的な入札である第1価格オークションと比較するために第1価格オークションに対応させるためVickrey(1961)が考えたもので実際にはあまり例がないと思われていましたが、Lucking-Reiley (2000) は切手のオークションが、多くはこのタイプであることを明らかにしました(後に紹介するLucking-Reileyの本も参照のこと)。
ネットオークションが出現する前までは、上記の4つのタイプが主なものでしたが、オークションネットオークションでは自動入札方式(proxy bidding)と呼ばれるオークションが出現しました。これは上記の英国式オークションを計算機が自動的に実現するもので、英国式オークションと第2価格オークションの中間形式と考えることができます。
単一財オークションは最初に理論が発展した分野で、もっとも基礎となる理論です。ゲーム理論の不完備情報ゲームを基礎としながら、収益等価定理や勝者の呪い、オークション形式の比較や留保価格(売り手がその価格以上でなければ財を売らないとする価格)のつけ方、参加者のリスク回避度の影響などを論じていきます。
理論の核となる定理の一つ収益等価定理とセカンドプライスオークションについてまとめたセカンドプライスオークションと収益等価定理というページを作成しました。(2020/10/13)。
(2)複数財のオークション
複数の財を売るオークションは、ワイン・木材・国債(売出し時)など同じものを多数売る同質財(homogeneous goods)か、周波数や物流の配送など異なる財を組み合わせて売る異質財(heterogeneous goods)の複数オークションかで2つの理論に分けられます。同質財オークションの理論では同じ財を多数売るときに、買う人ごとに異なる価格をつけるか(discriminate price)、同じ価格をつけるか(uniform price)という問題や、同時に売るか(simultaneous)、逐次的に売るか(sequential)、などの問題があります。
周波数オークションなど地域や帯域などによって異なる性質のものをどのように売っていくかという「異質財のオークション理論」は近年、もっとも注目されている分野と言えるかも知れません。ここではオークションをどのように設計するかが問題となります。Milgromは同時競り上げ式オークションと呼ばれる方法で周波数オークションに大きく貢献しました。異質財のオークションは、「組合せオークション」「VCGメカニズム」という情報学上の問題点の解決が必要なオークションもあり、計算機科学やオペレーションズ・リサーチなどの情報学周辺でも研究されている分野です。
(3)ダブルオークション
ここまでのオークションは売り手が1人でしたが、売り手も買い手も多数いるようなダブルオークション(double auction)と呼ばれる分野も研究されています。株式市場などが、その典型的な例です 。ここはそもそもオークションと考えるより、アダム・スミス以来の「市場の理論」の一部と考えることができ、オークション理論の中に加えないことも多いのですが、具体的な売買のメカニズムをどのように設計するかという観点からオークション理論に含めることもあります。
動画
渡辺が撮影したもの
- オランダ式オークション1(オランダ アムスメール花市場)
- オランダ式オークション2(大田市場 花市場)
- オランダ式オークション3(旧大田市場花市場 2004年頃)
- 英国式オークション1(クリスティーズ)
- 英国式オークション2(サザビーズ)
- 英国式オークション3(大田市場 移動セリ じゃがいも)
- 英国式オークション4(大田市場 固定 メロン)
- ふぐの袋せり(山口県下関市 南風泊市場)
その他ネット上の動画
オークション理論の教材
オークションの理論と実際(2010)
慶応大学の今井潤一先生の研究室で2010年に行った講演。収益等価定理についてのもっとも基本的な内容が解説されています。
参考文献
- Milgrom, Paul and Weber, R. (1982)、 A Theory of Auctions and Competitive Bidding. Econometrica. 50 (5), 1089-1122. doi:10.2307/1911865
- Myerson, Roger B. (1981), Optimal Auction Design, Mathematics of Operations Research, 6, 1, 58-73. doi: 10.1287/moor.6.1.58
- Vickrey, W. (1961), Counterspeculation, Auctions and Competitive Sealed Tenders. The Journal of Finance, 16, 8-37. doi:10.1111/j.1540-6261.1961.tb02789.x