ゲーム理論のゲームには、戦略形ゲーム(strategic form)と展開形ゲーム(extensive form)という2つの「表現」があります。戦略形ゲームは、プレイヤーは同時に行動を選ぶと考えてゲームを表します。これに対し、展開形ゲームは、先手と後手のあるゲームなど、どんなゲームでも表現できて、プレイヤーは同時に行動しなくても良いのです。
このような展開形ゲームの中でも、プレイヤーが1人ずつ順番に行動を選び(同時に行動することはなく)、各プレイヤーは自分より先に行動したプレイヤーが何を選んだかがすべて分かるゲームを完全情報(perfect information)の展開形ゲームと言います。代表的な例は、チェス、囲碁、将棋です。将棋で「自分より前に指した手が、何か分からん!」ってことはありませんよね?
完全情報ではないゲームは不完全情報(imperfect information)と呼びます、あたりまえですね。不完全情報ゲームの例としては、たとえば…「2人でじゃんけんをするとき、まず1人がグー・チョキ・パーを選んで紙に書いて相手に見えないように封筒に入れ、次にもう1人が改めてグー・チョキ・パーを選ぶ」という面倒なじゃんけんは不完全情報ゲームです。
…って、あれ?戦略形ゲームで勉強したように、これは同時に行動することと同じでした。「プレイヤーが同時に行動する戦略形ゲーム」は「不完全情報の展開形ゲーム」の典型的な例です。これはまた別の機会に。
ここでは完全情報の展開形ゲームとその解き方について学んで行きます。乱暴に言うと
- 戦略形ゲームは利得行列で表しナッシュ均衡で解く
- 完全情報展開形ゲームはゲームの木で表し、バックワードインダクションで解く
ということになります。乱暴すぎてかなり間違ってますが、細かいことは気にせず、ざっくり説明します。正確な定義や説明はゲーム理論のテキストなど読んでください。
完全情報展開形ゲームの例
以下の例を考えましょう。戦略形ゲームの支配戦略やナッシュ均衡の説明で使った例と同じです。今度はプレイヤーは同時に行動を選ぶのではなく、セレブ、ファミモの順に選びます。
2つのコンビニ、セレブ(セレブイレブン)とファミモ(ファミリーモール)が、A駅とB駅のどちらか一方に出店しようと考えている。コンビニを1日に利用する客はA駅が600人、B駅が300人である。セレブとファミモが違う駅を選べば利用客を独占できる。しかし同じ駅に出店すると、ファミモが人気で、ファミモはセレブの2倍の客数を獲得できる。すなわち両方がA駅に出店すると、セレブ200人、ファミモ400人。B駅に出店すると、セレブ250人、ファミモ500人である。ここで客数を利得と考える。
ここでは、まずセレブが先にどちらの駅を選ぶかを決定し、ファミモはそれを知ってから自分がどちらの駅に出店するかを決める。セレブとファミモはどちらの駅に出店するだろうか?
戦略形ゲームのように同時に行動するのではなく、プレイヤーが順番に行動をするゲームが展開形ゲームです。展開形ゲームは次のようなゲームの木で表します。
ゲームの木の正確な定義は後でやろうと思いますが、ざっくりと理解したい人には、ゲームの木の説明は不要でしょう?まず最初にセレブがAかBかを選び、次にそれを知ってからファミモがAかBかを選ぶと、結果が決まるのでセレブとファミモの利得がそこに書いてある、とそんな感じです。
ゲームを解く
ではさっそく、このゲームを解いてみましょう。皆さんがセレブだったらAとBのどちらを選ぶでしょうか?セレブがAを選ぶと、うまく行けば(ファミモがBを選べば)600の利得を得られますし、Bを選ぶとヘタをすれば(ファミモがBを選べば)100の利得になってしまいますね。だから、セレブはAを選ぶことが答のように思えるかも知れません。
しかし、ゲーム理論の答ではセレブはBを選びます。
なぜでしょうか?このゲームでは、セレブだけではなく、相手プレイヤーのファミモも利得を大きくしたいと考えています。セレブは「うまく行けば」「ヘタをすると」と、自分勝手に考えるのではなく、ファミモの行動を考えて、自分の行動を選択する必要があります。このためにはセレブの次に行動するファミモの行動を先読みする必要があるわけです。
ファミモの行動を先読みしてゲームを解いてみましょう。
- セレブがAを選ぶと、ファミモはAを選べば利得が400、Bを選べば利得が300となるなのでAを選ぶ
- セレブがBを選ぶと、ファミモはAを選べば利得が600、Bを選べば利得が200なのでAを選ぶ
これを先読みするとセレブは、Aを選ぶと(ファミモがAを選ぶので)利得が200、Bを選ぶと(ファミモがAを選ぶので)利得が300となるのでBを選ぶ、ということになります(下図)。
結果は「セレブがBを選び、ファミモがAを選ぶ」となります。これが(完全情報)展開形ゲームの解き方です。この先読みによるゲームの解き方はバックワードインダクションと呼ばれます。
以上、とりあえず完全情報展開形ゲームについての簡単な説明と解き方でした。乱暴に言うと
- 戦略形ゲームは利得行列で表しナッシュ均衡で解く
- 完全情報展開形ゲームはゲームの木で表し、バックワードインダクションで解く
ということでしたね。乱暴すぎて、かなり間違ってますが、最初は細かいことは気にせず、そんな感じで覚えておけばよいでしょう。正確な定義や説明はゲーム理論のテキストなど読んでください(またか)。
バックワードインダクションによってゲームを解く方法は、「バックワードインダクションで展開形ゲームを解く」で、もう少し詳しく説明することにします。ゲームの木については「ゲームの木について、ちょい詳しく」でお話します。一般の不完全情報ゲームとはどんなもので、どのように解くかは、またの機会に。お急ぎの方はゼミナールゲーム理論入門」で!
東京都立大学 2020ゲーム理論1 オンライン講義(2020:コロナ対応) ゲーム理論1_09完全情報の展開形ゲーム
コメント
“展開形ゲームとは?ゲームの木とは?” への2件のフィードバック
[…] 完全情報展開形ゲームとその解き方であるバックワードインダクション(backward induction)について「展開形ゲームとは?ゲームの木とは?」で、ざっくりと話しました。ここではバックワードインダクションによるゲームの解き方を、もう少し詳しく説明します。 […]
[…] 戦略形ゲームは、展開形ゲームと並ぶ非協力ゲームの表現形式です(参照:戦略形ゲームと展開形ゲーム)。戦略形ゲームは、プレイヤー、戦略、利得の3つの要素から構成されます。すべてのプレイヤーは同時に戦略を選び、その結果、各プレイヤーの利得が決まります。 […]