セカンドプライスオークションと収益等価定理をざっくり解説

収益等価定理とは、どんなオークションでも、売り手に与える収益は同じになるという驚くべき定理です。ここでは第2価格入札、第1価格入札、競りの3つのオークションについて考え、収益等価定理が成り立つ理由や第2価格入札で参加者が自分の評価額をそのまま入札することが良いことなどについて、ほんとにざっくりと説明します。

定理の説明の補足から

定理の説明はざっくりしすぎましたので、もう少しだけ正確に言わせて下さい(ややこしければ飛ばして次を読んで下さい)。(1)オークションで販売される財の価値に対して参加者が持つ価値は他者とは独立に決まり(IPV:Independent Private Value) 、(2)その価値は事前には同一で独立の確率分布に従い、(3)参加者の行動は対称的(同じ価値であれば同じ入札額になるという感じ)で、(4)参加者はリスク中立的であれば、どんなオークションも落札金額の決め方によらず(ただし入札額の一番高い人に財を売ること)売り手の収益はやはり2番目に高い参加者の評価額売り手に与える収益の期待値は同じになり、2番目に高い参加者が持つ価値の期待値に等しい、 という定理です。

この定理を正しく理解するには、(1)ゲーム理論の不完備情報ゲームを修得し、(2)確率に対する知識を持ち、その中でも順序統計量という理論を理解し、なおかつ(3)微分方程式が解けなければならない、というもので意外と(かなり?)手強いです。

そこで第2価格入札(セカンドプライスオークション)、競り、第1価格入札(ファーストプライスオークション)の3つのオークションについて、収益等価定理が成り立つ理由について、これらのことを使わずに、ほんとにざっくりと、かなりいい加減に、直観的に説明します。

第2価格入札

ゲーム理論やオークション理論を習って感激するのは、第2価格入札=セカンドプライスオークションの理論です。このオークションは1番高い入札をした人に、2番めに高い入札額で財を売るというヴィックリなオークションです(セカンドプライスオークションを考えたW. Vickreyにかけている…すみません)。

「おい、1番高い値段じゃなく2番目で売るなんてことをしたら、売る人が損するんじゃね?」と思うひと。ゲーム理論やメカニズムデザインを勉強しましょう!そうではないんです!

普通のオークションは1番高い入札をした人に、その人の値段で売りますよね(第1価格入札=ファーストプライスオークション)。すると入札者は安く買うために入札額を下げようとします(ただし下げすぎると競争に負けて落札できないので迷うことになります)。ところが第2価格入札だと、入札者が財を買う値段は自分の入札額ではない(自分の次に高い人の入札額)ので、安く入札しようが高く入札しようが、自分が買う値段には関係ないことになり、参加者の入札額は通常の第1価格入札より高くなります。

参加者が安く入札した1番高い入札額(第1価格入札)と、参加者が高く入札した2番めに高い入札額(第1価格入札の)…どっちが売り手にとって良いか分からんぞ!ということになります。ここがポイントです。

これが同じになるっていうのが収益等価定理なんです。

ここからは以下の例で考えてみましょう。いま真帆とはるかという2人の参加者がオークションに参加していて、売られている財(怪しい水晶玉)の評価をそれぞれ120万円、200万円としているとしましょう(図1)。オークションは第2価格入札であるとします。

図1 オークションの設定

このとき「はるか」は真帆の評価額も入札額も分からないとして、第2価格入札でいくらを入札すれば良いのでしょうか?

  • 評価額の200万円より安い金額xを入札した場合。このように入札しても、もし落札できれば、200万円を入札したときと同じ金額で買うことになる。(相手の入札額が落札価格なので)。しかも相手がx万円以上を入札してきたときは、落札できないので評価額の200万円を入札したほうがいい。
  • 評価額の200万円より安い金額yを入札した場合。このときは相手が200万円より高い入札をしても落札できる訳だが、それでは評価額より高い金額で買うことになってしまう(赤字)。相手が200万円より安い入札をしたら200万円でも落札できるので、評価額の200万円を入札したほうがいい。
  • 図に示すと図2のようになる。
図2 第2価格入札では評価額を入札することが一番いい

つまり第2価格入札では、相手がどんな入札をしても自分の評価額を正直に入札することが良い、ということになります(ゲーム理論では弱支配戦略と言う)。これが第2価格入札がヴィックリオークションと呼ばれる理由です(って、そんな風に誰も呼んでません、念のため)。 この性質は第2価格入札の耐戦略性と呼ばれ、メカニズムデザインにおいて重要な性質と考えられています。

このように第2価格入札では参加者は自分の評価額を正直に入札します。その結果、売り手の収益は、2番目に高い参加者の評価額になります。図1の状況では、真帆は120万円、はるかは200万円を入札し、売り手ははるかに120万円で財を売ることになります。

第1価格入札

では通常の1番高い入札をした人に、その値段で売る「第1価格入札」(=ファーストプライスオークション)では、どうなるのでしょうか。これは第2価格入札のように「相手がどんな入札をしても。。。」とは行きません。相手が高く入れれば高く、低く入れれば低く入れなければならないので、相手の評価額を推測する必要があります。そこで不完備情報ゲームの理論、確率理論、微分方程式、と飛び道具を使うんですが、ここではそうは行かないので、単純化して相手の評価額が分かっているとして考えてみましょう。

図1の状況で、皆さんが「はるか」だったらいくらを入札するでしょうか?はるかは競争相手の真帆の評価額が120万円であることを知っているとしています。真帆が90万円くらい入札するなら、安く91万円くらいで買いたいところですが、はるかは真帆の評価額が分かっても入札額は分かりません。しかし真帆は120万円以上は絶対に入札してこないはずです。したがってはるかは120万円を超えるできるだけ安い価格を、可能であれば120万1円とかを入札すれば良いはずです。

つまり第1価格入札では、評価額が1番高い参加者は2番めに高い参加者の評価額の僅かに上を入札すれば良い。「僅かに上」は無視できるとして、第1価格入札では評価額が1番高い参加者が2番目に高い参加者の評価額を入札すると考えることができます。その結果、売り手の収益はやはり2番目に高い参加者の評価額になります。図1の状況では、真帆は120万円以下を、はるかはほぼ120万円を入札し、売り手はほぼ120万円で財を売ることになります。

競り

収益等価定理は競りにも適用できます。図1の状況で、30万円、40万円、50万円。。。と価格が競り上がっていく状況を考えましょう。このとき真帆やはるかはどうするでしょうか?

図3:評価額までは競りに参加する

参加者は、自分の評価額を超えるまで、真帆は120万円まで、はるかは200万円まで競りに参加して、頑張るでしょう。しかし評価額になると、競りから降ります。その結果、真帆が120万円で落札することになります。

評価額を超えると競りから降りる

このように競りでは、評価額の2番めに高い参加者が降りた時点で、評価額の1番高い参加者が落札することになります。落札額は参加者の2番目に高い評価額になります。1番高い評価額には関係ないことに注意です、図の状況でたとえはるかが1億円まで出すつもりがあっても、真帆が120万円以上出す気がないなら、120万円で落札するわけです。その結果、競りでも売り手の収益はやはり2番目に高い参加者の評価額になります。

ちなみに競りで参加者は、相手の評価額を予想する必要はなく、自分の評価額まで競りに参加し、自分の評価額を超えれば競りから降りることが一番良いということが明らか(obvious)ですね。明らか均衡です。このことから第2価格入札と競りは、同等であるとも言えそうです。

収益等価定理

これで分かるように、第1価格入札、第2価格入札、競りは、売り手に同じ収益を与え、それは参加者の2番めに高い評価額になるということが、ざっくりと分かりました。第2価格入札と競りでは相手の入札額に関係なく、このことが成り立つのですが、第1価格入札をはじめとする他の入札では、相手の評価額を確率に従って予測しなければなりません。このため不完備情報ゲームのベイズナッシュ均衡という概念により理論を構築します。一番最初に述べた仮定のもとで、どんなオークション(第3価格入札とか、一番安い入札額で売るとか、第1価格と第2価格の平均値で売るとか)でも、売り手の収益は2番目に高い参加者の評価額の期待値になることが示されます。


コメント

“セカンドプライスオークションと収益等価定理をざっくり解説” への2件のフィードバック

  1. […] セカンドプライスオークションと収益等価定理 […]

  2. […] このことから共通価値モデルでは「セカンドプライスオークションでは、参加者が自分の評価額を正直に入札する」ということは成り立たないことが分かります。合理的な入札者は、自分が勝者になっても勝者の呪いが起きないように、自分の評価額よりも低く入札を行うという結果が得られます。 […]