多人数の「じゃんけん」で1人の勝者を選ぶには、最後の1人が決まるまで何回もじゃんけんをしなければなりません。「わたなべじゃんけん」は、1回のじゃんけんで、1人の勝者を1発で決めることができる画期的なじゃんけんです。
やりかた
やりかたはとても簡単です!
1.参加者に1から順番に番号を割当てます(誰かを1番とし、右回りに振ると良いでしょう)。図は4人の例です。(キャラクター紹介)
2.「わたなべじゃんけん、ジャンケンポン!」の掛け声で、各参加者は1から人数までの中で、好きな数を指で出します。(ゼロはナシ)
3.全員の指の数を合計します。(合計する方法:1の人が自分の指の数を言う。次の人からは、前の人が言った数に自分の指の数を足した数を言う。すると全員の指の数の合計が計算できます。)
4.合計した指の数を、人数で割った余りを計算します。その余りと最初に割り当てた番号が同じ人が勝ちです。(余りが0の場合は、一番大きい数(=人数)の人が勝ちです)。
余りが3なので、3番の勝ち。(もし余りが0なら4番の人の勝ちです。)
動画で見てみよう
動画を見るとすぐ分かります。動画を見てみましょう。
1.卒業式で褒められたい
まだまだ褒められ足りない卒業式。褒めてもらえる人をわたなべじゃんけんで決めよう!
2.最後のジャガポックル
1つしかないジャガポックルを食べる人を5人の中から選びます。
3.居酒屋編
居酒屋でビールを頼む人を5人の中から決めます。
4. Who will pick the Sushi first? (in English)
誰が最初に好きなお寿司を食べられるのか?英語編
5. Qui va manger des sushis en premier? Decidons par Watanabe jyanken! (En francais)
誰が最初に好きなお寿司を食べられるのか?フランス語編
特徴
わたなべじゃんけんには以下の特徴があります。
- 1人の勝者が1回で決まる
- 公平な決め方
- 誰もが勝つ確率が同じー皆がどの指も同じ確率で出すならば
- どの指を出しても勝つ確率は同じー偏りなく指を出すことがナッシュ均衡
- 分かりやすいじゃんけんーフランスじゃんけんは各拳を出す確率が違う
- 楽しい
1人の勝者が1回で決まる
多人数でじゃんけんをすると、なかなか勝者が決まりません。1人の勝者を選び出すためには、平均して何回くらいじゃんけんをしなければならないのでしょうか。ジャンケンで1人の勝者が決まるまで、平均して何回ジャンケンが必要かをシミュレーションしてみました。
じゃんけんで勝者が決まるまでの平均回数
人数 平均回数
2 1.5
3 2.1
4 3.0
5 4.3
6 6.0
7 8.4
8 11.9
9 16.9
10 24.1
渡辺(2008) モンテカルロシミュレーションによる
この結果によると、10人でジャンケンをすると1人の勝者が決まるまでに平均で24回かかります。24回もじゃんけんをやるのは大変です。8人以上、9人や10人のときにわたなべじゃんけんが効果を表すことが分かります。
6人だと、普通のジャンケンは平均6回で勝者を選び出します。しかし「6回程度のジャンケンなら...」と甘く考えてはいけません! シミュレーション結果では、ジャンケンを13回以上もやらなければならない事が10%程度の確率で起こりえることがわかりました。しかも1%の確率で、勝者が決まるまでに20回を超えることもあります。
わたなべじゃんけんなら、どんなときも一発で勝者を決めることができます。
誰もが勝つ確率が同じ
わたなべじゃんけんは、参加者のすべての指の出し方に対して、どの参加者も勝つ場合の数は同じです。つまり、参加者がすべての指を等確率に出せば、どの参加者も勝つ確率が同じであることを示すことができます。
例えば3人の場合-Aさん、Bさん、Cさんの3人-でワタナベジャンケンをするときを考えてみましょう。ここでAさんが1、Bさんが2、Cさんが3としておきます。
3人が出す指をAさん、Bさん、Cさんの順に並べ、誰が勝つかを表にしてみます。例えば「1-1-2 A」と書いてあるのは、Aさんが1を、Bさんが1を、Cさんが2を出したときにAさんが勝つことを示しています。(1+1+2=4で3で割った余りは2なので)
1-1-1 C | 1-1-2 A | 1-1-3 B |
1-2-1 A | 1-2-2 B | 1-2-3 C |
1-3-1 B | 1-3-2 C | 1-3-3 A |
2-1-1 A | 2-1-2 B | 2-1-3 A |
2-2-1 B | 2-2-2 C | 2-2-3 B |
2-3-1 C | 2-3-2 A | 3-3-3 C |
3-1-1 B | 3-1-2 C | 3-1-3 A |
3-2-1 A | 3-2-2 A | 3-2-3 B |
3-3-1 C | 3-3-2 B | 3-3-3 C |
すべての指の組み合わせと勝者
これから分かるように、すべての指の組合せは27通りで、Aさん、Bさん、Cさんが勝つ組合せはそれぞれ9通り。3人が勝者になる確率は等しく3分の1であることが分かります。
なぜこうなるか。更に一般的な考察を進めてみましょう。上の表の各行はAさんとBさんが出す指が同じであることに対応し、Cさんが、1、2、3を出す3通りの指で3つのマスが分けられています。そして各行ごとに、Aさん、Bさん、Cさんが勝つ組合せはちょうど1通りずつ存在します。このことから3人が勝つ場合の数は同じになることが分かります。もう少し詳しく見てみましょう。
まず1行目-Aさん、Bさんが1を出したとき-を考えます(1-1-*)。このとき
- Cさんが1を出せば(合計は3で、3で割って余りは0なので)Cさんの勝ち
- Cさんが2を出せば(合計は4で、3で割って余りは1なので)Bさんの勝ち
- Cさんが3を出せば(合計は5で、3で割って余りは2なので)Bさんの勝ちです。
つまりこの場合、Aさん・Bさん・Cさんが勝つ組合せは1通りずつになることがわかります。
次に2行目-Aさんが1、Bさんが2を出したとき-を考えます(1-2-*)。このときCさんが1を出せば(合計は4で、3で割って余りは1なので)Aさんの勝ち、2を出せばBさんの勝ち、3を出せCさんの勝ちです。この場合もAさん・Bさん・Cさんの勝つ組合せは1通りずつです。
もうお分かりと思いますが、AさんとBさんが何を出しても、Cさんのすべての指の出し方(3通り)に対して、Aさん・Bさん・Cさんが勝つ組合せは1通りずつです。AさんとBさんのすべての指の出し方について、これが成り立つので、AさんとBさんとCさんが勝つ組合せは同じであることが分かります。
このことは3人だけではなく、何人であっても成り立つことが分かるでしょう。一般にn人でわたなべじゃんけんを行うとき、n-1人の出す全ての指の組合せに対して、残り1人が1からnまでの指を出したとき、すべての参加者が勝つ指の組合せはちょうど1通りずつになります。これによって、わたなべじゃんけんでは、各参加者が勝つ指の組合せの数は等しく(nのn-1乗通り)なることが分かります。
耐戦略性:偏りなく指を出すことがナッシュ均衡
すべての指の組合せに対して、各参加者が勝つ組合せの数が等しければ、それだけでじゃんけんは公平なのでしょうか?「すべての人が等確率に指を出す」ことを前提とするならば、これは正しいと言えます。しかしこれは、ゲーム理論の観点から言えば誤りです。
これを明確にするために、Aさん、Bさん、Cさんの3人のじゃんけんで、AさんとBさんは1か2だけを出し、Cさんだけが1か2か3を出せるような「非対称なわたなべじゃんけん」を考えてみましょう。このときすべての指の組合せは12通り、勝者は以下のような表で決まります。
1-1-1 C | 1-1-2 A | 1-1-3 B |
1-2-1 A | 1-2-2 B | 1-2-3 C |
2-1-1 A | 2-1-2 B | 2-1-3 C |
2-2-1 B | 2-2-2 C | 2-2-3 A |
このときすべての指の組合せにおいて、AさんとBさんとCさんが勝つ組合せはそれぞれ4通り。もしAさんとBさんとCさんが同じ確率で指を出すなら、すべての人に公平なじゃんけんに見えます。しかしこれは明らかにおかしいです。なぜでしょう。
Cさんは、自分が1を出したときに自分が勝つ組合せは1通り(1-1-1)、2を出しても自分が勝つ組合せは1通り(2-2-2)ですが、3を出したときに自分が勝つ組合せは2通りあります(1-2-3、2-1-3)。従って、もしAさんとBさんが1と2の指を等確率で出してくるならば、Cさんはもはや1と2と3の指を等確率では出さず、3の指を出した方が勝つ確率が高くなります。(ゲーム理論的には「等確率で各指を出すことがナッシュ均衡にならない」)
わたなべじゃんけんは、すべての指を等確率で出せば良く(ナッシュ均衡になっている)、その「すべての指を等確率で出す」時に、すべての人が勝つ確率が等しくなる「公平なじゃんけん」です。
(補足)ちなみにこの3人ゲームのナッシュ均衡は、利得の設定を勝ちを+1、負けとあいこを0とすると、
- Aさんは、1を、2をの確率(1を0.38、2を0.62)で選び、
- Bさんは、1を、2をの確率(1を0.38、2を0.62)で選び、
- Cさんは、1と2と3を1/3ずつの等確率で選ぶ
ことがナッシュ均衡となります。
分かりやすいじゃんけんーフランスじゃんけんは各拳を出す確率が違う
ただし等確率で指を出すことが良くない(ナッシュ均衡にならない)からといって、公平ではないと言うのは必ずしも正しくはありません。このことを考えるために「フランスのじゃんけん」というのを考察してみましょう。フランスはあまりじゃんけんで物事を決めないようですが(話し合いで決めるらしい)、一応、じゃんけんらしいものは存在していて、それは「石・はさみ・木の葉・井戸」の4つの挙でできているそうです。(例えば「世界のじゃんけん」、世界のじゃんけん (大人と子どものあそびの教科書) (単行本) 田中 ひろし (著), こどもくらぶ (編集などを参照せよ)。このとき4つの拳の力関係は以下のようになっています。
木の葉は、井戸と石に勝ち、はさみに負ける(木の葉は井戸を埋め尽くし、石を包むが、はさみで切られる)井戸は、はさみと石に勝つ(はさみと石を沈めることができる)はさみは、石に負ける(石を切ることはできない) |
このじゃんけんでは、4つの拳を等確率で出すことは良い戦略ではありません(ナッシュ均衡にならない)。このじゃんけんでは、木の葉と井戸は2つの拳に勝ち1つの拳に負け、石とはさみは1つの拳に勝ち、2つの拳に負けるので、相手が等確率で4つの拳を出してくるならば、木の葉と井戸を出す確率を高くすれば勝つ確率を上げることができます。
しかし参加者がこのことを読み込んで、このじゃんけんに熟練すれば、このフランスのじゃんけんも公平なジャンケンであると考えられます。
2人でこのじゃんけんをするときは、木の葉、井戸、はさみを確率1/3で出し、石を使わないこと(確率0とする)ことが良い方法となります(注)。したがって、2人がこのことを分かっているほど賢い大人ならば、お互いがこの確率を選んでいるときは、自分の勝つ確率と相手の勝つ確率は1/3で同じです(あいこの確率も1/3)。
しかし相手がこのことが分からず、少しでも石を選んでくるならば、相手の勝つ確率は下がり自分の勝つ確率は上がります。ちなみに相手が4つの拳を等確率で選んでくるならば、自分の勝つ確率は5/12になります(1/12増加する)。
このように「フランスのじゃんけん」でも、賢い人同士にとっては公平なじゃんけんと言えます。しかし、このような計算をできない人にとっては公平とはいえません。そこで等確率で拳を出すことがナッシュ均衡であることを「大人にも子供にも公平なじゃんけん」と呼ぶことにしました。わたなべじゃんけんは「大人にも子供にも公平なじゃんけん」と言えます。
(注)均衡点の計算方法として利得の設定を(1)勝ちを+1、負けを-1、あいこを0とする(この場合はゼロ和2人ゲームなのでナッシュ均衡はミニマックス戦略と同じ) 、(2)勝ちを+1、負けとあいこを同じ0とする、という2つの方法がありますが、このゲームではどちらにしても均衡戦略は同じで「木の葉、井戸、はさみを確率1/3で出し、石を確率0とする」となります。
由来
わたなべじゃんけんは、メカニズムデザインの中に現れる「modulo game」と呼ばれるメカニズムをヒントにして、考えついたものです。メカニズムデザインは、人々の利己的で戦略的な行動を考慮したうえで、売買のシステム・オークション・公共財の配分や税の徴収・企業の規制方法など、さまざまな制度がうまく実現できるかどうかをゲーム理論や実験経済学の手法を用いて考察する理論です。
2007年度のノーベル経済学賞は、このメカニズムデザインの功績を称えて、ハーヴィッツ・マスキン・マイヤーソンに与えられました。一般の方にはなじみが薄いかもしれませんが、経済学やゲーム理論では大変注目されている分野です。また日本人の若手研究者が目立つ分野でもあります。
modulo gameは、メカニズムデザインの初期の研究によく現れるメカニズムです。大雑把に言えば、人々が戦略的な行動から正直な表明をしなかった場合は、わたなべじゃんけんのように陥るようなメカニズムです。わたなべじゃんけんのようになってしまえば、かならずそこから指を変えて結果を変えた方が良い人が現れるので、そのような正直ではない行動が、戦略的な行動の帰結(ナッシュ均衡)にはならないことを保証します。
このmodulo gameは、上記のようなナッシュ均衡に基づいたメカニズムの設計(Nash implementationという)に効果がある素晴らしい発明でしたが、現実に売買のシステムや公共財の配分などを考えると、このような「数字を言わせて余りで決める」という制度が現実に受け入れられる可能性は薄く、そのことなどが批判されて、最近では見ることが少なくなりました。
私は若い頃、このアイディアを見たときに、素晴らしいものだと思い大変感激しました。実際の売買システムや、財の配分に使われることはなくても、何とかこの方法を有益に使えないかと考えて、わたなべじゃんけんを思いつきました。
モーラ(Morra)とわたなべじゃんけん
面白い発明(?)だと思ったわたなべじゃんけんですが、このようなやり方は(さすがに)考えていた人が他にいたようです。
wikipediaにモーラ(morra)の紹介があります。
モーラは古代ギリシャからあるフィンガーゲームです。基本的のルールとしては、1から5までの指を出すと同時に数を叫び、指の合計を当てた人が1点を獲得するというゲームです。また別バージョンでは、各プレイヤーは奇数か偶数にラベルづけされます。全員で同時に1から5までの指を出し、合計が奇数か偶数で競い合います。
そして、アメリカ版のwikipediaのモーラの項には「このゲームは、剰余を用いて多人数のプレイヤーに拡張できる。n人のプレイヤーに対し、0から1の数を割り当てる。3つ数えて、各プレイヤーは0を含むn未満の数を指で出す。指の数の合計をnで割った余りに当たっている人が勝者」と書かれています。
わたなべじゃんけんは、私の大発明とは行かなかったようです!