ゲーム理論の始まりは、1944年に数学者フォン・ノイマンと経済学者モルゲンシュテルンが出版した『ゲームの理論と経済行動』という本であると言われています。ゲーム理論は、社会や経済のさまざまな問題においては企業や国や個人を、生物学において種や遺伝子を「プレイヤー」と考え、その「プレイヤー」が「ゲーム」をしているとみなすことで、その行動や生き残りを、数学を使い分析しようとする学問です。
『ゲームの理論と経済行動』の邦訳版(刊行60周年記念版:武藤滋夫翻訳)
さまざまな問題を「ゲームのように考える」とは、どういうことでしょうか?例えば、将棋の場合は、プレイヤーは「王を右に動かすか、歩を前にすすめるか」のような選択に迫られます。これに対して、例えば価格競争では企業は「値下げ」か「現状維持」かという選択に迫られますし、領土紛争では国は相手国に対して「警告」か「攻撃」か、などの選択に迫られています。
この選択肢をゲーム理論では「戦略」と呼びます。そして、すべてのプレイヤーが選択を行うと、プレイヤーの損得が決まります。これをゲーム理論では「利得」と呼びます。損得は価格競争の場合は金額のような数値になりますし、将棋のように勝ち負けが決まるときは、勝ちを+1、負けを-1と考えれば良いでしょう。
このように考えると、価格競争でも、プロジェクトの共同開発でも、交渉も、領土紛争も、将棋も、ポーカーも、プレイヤー(個人、企業、国)がいて、戦略(どのコマをどう動かすか、値下げか現状維持か…)を選択し、その結果として利得が決まる、という点で共通しています。そこで数学を用いて、プレイヤーを1、2、3…と書き、戦略をa、b、c…と書き、利得をそれに対応させれば、世の中のありとあらゆる問題を同じ数式(=モデル)で書くことができます。これがゲーム理論です。
企業も国や自治体も、そして私達自身も、毎日、誰かとと競争したり協力したりしています。例えば「商品の価格を値下げするか、現状維持するか?」「新しいプロジェクトを相手企業と共同で行うか?単独で行い相手と競争するか?」「もう少し自分に利益を配分してもらうように交渉するか?」「自国領土に侵略してきた敵国に対し、警告で済ませるか、攻撃を仕掛けるか?」など、です。
比較的歴史が新しい「進化ゲーム」と呼ばれる分野では、プレイヤーは意思決定をするとは限らず「遺伝子に従って行動する生物」や「慣習に従って行動する人間」なども考えます。近年のゲーム理論は、意思決定する主体を考えるだけではなく「複数の主体の行動をゲームと捉えて分析する学問」と言って良いでしょう。