TeX関連

図の貼り込み(未解決あり)

今まで(1998年頃からずっと)powerpointを使って図を作成し、コピペでAdobeのIllustratorに貼り付けてepsファイルにしてincludegraphicsで取り込んできた。しかし最近はepsファイルを使わずpdfを使えという。

今までに作ったepsファイルをpdf変換するには、acrobat distillerを使うとうまく行った。バウンディングボックスもうまく取得してくれる。

powerpointで作った図をepsを経由せずにpdfにするにはどうすればいいのかは分からない、直接powerpointをpdfとして保存すると、バウンディングボックスをうまく作ってくれないので、図が全部余白も入ってA4サイズになってしまう。

UNICODE問題

自分はwindowsを使い、秀丸エディタを使っているので、日本語のcodeはずっとshiftJISだった。最近はUTF-8を使えと言うんで、これまでshiftーJISで書いたファイルも徐々にUTF-8に変換している。

が、package inputenc errorが出る。

改行直後に「があると、引っかかることがあるようだ。^ed^^bd^^a2ってなる。
改行位置を変えることでとりあえず、難を逃れている。あと改行直後の「が、コードを変換したときに、うまく変換できなかったものが残っている時があって、そのときは「を入力し直す。

半角カッコが混じっていたのかもしれない!

囚人のジレンマ

囚人のジレンマとは

囚人のジレンマは、ゲーム理論の中で、もっとも有名な例・モデルと言えるでしょう。
2人のプレイヤーが「協力するか」「協力しないか」を選ぶ問題で、以下の3つの条件が成立するときに、それは囚人のジレンマと呼ばれます。

(1)各プレイヤーは、相手が協力するならば、自分は協力しないほうが良い。
(2)各プレイヤーは、相手が協力しなくても、自分は協力しないほうが良い。
(3)しかし各プレイヤーは、2人が協力しないよりは、2人が協力したほうが良い。

(1)と(2)から、相手が何を選んでも自分は「協力する」より「協力しない」ほうが良いので、2人は協力しないことを選択します。しかしその結果が2人が協力することよりも悪くなっているために問題となるわけです。

ここで 「協力する」ことはゲーム理論では支配戦略と呼ばれます。支配戦略は、相手が何を選んでも、自分にとって他の選択より良い選択です。このことから支配戦略を選ぶことは自明のように思えるのですが、 囚人のジレンマを考えると支配戦略を選ぶことが必ずしも自明では思えなくなります。

囚人のジレンマの由来

この問題が囚人のジレンマと呼ばれるのは、タッカー(A. Tucker。カルーッシュ・クーン・タッカー条件(Karush-Kuhn-Tucker condition)のタッカーです)という数学者が上の状況を以下のようなストーリーで表現したことが由来であると言われています(以下はタッカーのオリジナルのストーリーとは違います)。

(囚人ジレンマ ストーリー)重罪を犯しているが、証拠が不十分なため軽微な罪で逮捕されている2人の囚人がいる。彼らは別々な部屋で取引を持ちかけられる「お前だけが重罪について自白すれば無罪にしてやる」。
 もし2人が黙秘を続けると、軽微な罪で懲役1年である。しかし1人が自白し、1人が黙秘をすると、自白した方は釈放、黙秘した方は(捜査に協力しないことで罪が重くなり)懲役10年。しかし両方が自白すると(重罪で)懲役5年になる。
 さて、あなたが囚人ならば自白したほうが良いか、黙秘したほうが良いか?

この状況を表にすると、以下のようになります。

囚人のジレンマ

先に述べた「協力すること」を「黙秘」に、「協力しないこと」を「自白」に置き換えると、囚人のジレンマの3条件に当てはまることが分かります。すなわち、

(1)各囚人は、相手が黙秘するなら、自分は自白するほうが良い。
(2)各囚人は、相手が自白するとしても、自分は自白するほうが良い。
(3)しかし各囚人は、2人が自白するよりは、2人が黙秘したほうが良い。

相手が黙秘しても自白しても、自分は黙秘するより自白するほうが良いので、2人は自白を選びます。しかし、その結果は2人が黙秘するよりも悪くなります。

囚人のジレンマの例

この問題が興味を持たれるのは、社会や経済や政治の問題にこのジレンマが多く現れるからです。例えば

  • 2国間の軍備拡張の問題。相手国が軍備拡張しない場合、自国だけが軍備拡張をすれば相手に外交上優位な立場に立てる。相手国が軍備拡張しない場合は、自分も拡張して追いつかなければ、相手に優位に立たれてしまう。しかし、両国とも拡張すると、拡張前と力のバランスは変わらず、ただ軍事費だけが増えてしまう(核兵器の問題にも同様な文脈が使われます)。
  • 安売りの問題。競争関係にある2店舗が、顧客を取り合うために、商品の価格を現状維持とするか、安売りをするかの問題。相手が現状維持の場合、自分だけが安売りをすれば顧客を奪い売上が増えるので、安売りをしたほうが良い。相手が安売りをしている場合、自分だけが現状維持をすると顧客を奪われ売上が減少するので、こちらも安売りをしたほうが良い。しかし両者が安売りをすると、顧客を奪うことはできず、価格の低下で売上だけが減ってしまう。

と言った現象です。なお安売りの問題は、安売りをしている企業にとっては問題ですが、消費者にとってはそれ以上に恩恵があります。市場の価格競争は、囚人のジレンマという構造を利用して消費者の厚生を高める仕組みだと言うこともできます。

囚人のジレンマの繰り返し

囚人のジレンマは、本来なら協力することが望ましい2人が協力しない方が良いという結果になってしまうジレンマです。これは、協力することをコミットするような契約(協力しなければ罰金を払うなど)を結ぶことで解決できる可能性がありますが、国家間の関係のように、このような契約を結ぶことが難しい場合もあります。このような場合、囚人のジレンマの状況は1回きりではなく、長期間に継続する問題でもあります。このような長期間に続く囚人のジレンマは、囚人のジレンマを何度も繰り返すようなゲームだと考え、繰り返しゲームという枠組みで分析されます。

注意点

囚人のジレンマを語るには、以下のことに注意する必要があります。

  • 2人ではなく3人以上の多人数版の囚人のジレンマは共有地の悲劇と呼ばれます。(3人以上でも、「囚人のジレンマ」と呼ばれることもありますが)。
  • 「2人が協力しない」というゲームの解を支配戦略ではなく、ナッシュ均衡であるとしている解説もあります。全員が支配戦略を選ぶことは、ナッシュ均衡の特殊ケースなので、そうしても間違いではありません。しかしナッシュ均衡より強い支配戦略として理解するほうが適切です。
  • 囚人のジレンマと言われている状況でも、3つの条件のうち、(2)について抜けている場合があります。例えば
    X先生と2人で教授会で口論になり、教授会の時間がどんどん長引いている。(1′)X先生が折れるなら、自分は折れるより折れないほうがいい。(2′)自分が折れるなら、X先生は折れるより折れないほうがいい。(3′)でも2人が折れないなら、教授会は長引くばかりで、それなら2人とも折れたほうがいい(まったくの、まったくのフィクションです)。
    一見すると条件が3つ揃ってるように見えますが、(1′)も(2′)も「相手が協力するなら、自分は協力しないほうが良い」という囚人のジレンマの条件(1)を2人のプレイヤーに分解して言い換えただけで、条件(2)(相手が折れないなら、自分は折れたほうが良いのか、折れないほうが良いのか)が特定されていません。もし「相手が折れないなら、自分は折れたほうがいい」ならば、これはチキンゲームです。

囚人のジレンマのブックガイド

  • 囚人のジレンマ--フォンノイマンとゲームの理論 (1995)、ウィリアム・パウンドストーン(著)、松浦俊輔(訳)、青土社、\2600、ISBN:4791753607。
    • まさに「囚人のジレンマ」をタイトルにした本だが、それのみではなくゲーム理論の歴史と逸話に、ゲーム理論の初歩的な考え方を絡めた読み物である、ゲーム理論とは何かを知る入門書としても面白い。囚人のジレンマの誕生や囚人のジレンマに関する多くの研究について知ることができる。キューバ危機ではノイマン自身が原子力安全委員会の委員長として、ソ連とアメリカの囚人のジレンマにどう対応したかなどが興味深く記されている。原著はW. Poundstone、 Prisonaer’s Dillemma (1992)、Doubleday。
  • つきあい方の科学―バクテリアから国際関係まで (1984)、R. アクセルロッド (著)、Robert Axelrod (原著)、松田 裕之 (翻訳)、Minerva21世紀ライブラリー(ミネルヴァ書房)、\2600、ISBN:4623029239。
    • 「囚人のジレンマ」の研究の中で、一般の人に有名で影響が強く、分かりやすいのはロバート・アクセエルロッドのコンピュータプログラムどうしのトーナメントによる実験であろう。この本は、その詳細をな結果や経緯をもとに、囚人のジレンマ研究のビジネスへの応用が解かれている。
  • 信頼の構造--こころと社会の進化ゲーム (1998)、山岸敏男(著)、東京大学出版会、\3200、ISBN:413011086
    • 社会心理学の立場から実験やゲーム理論の成果などをふまえて囚人のジレンマや社会的ジレンマがどのように起こり、どのように解決されるかの要因を探り、分かりやすく解説した本。馴れ合いや安易な集団主義に警告を発し、真の信頼関係を築くために何が必要なのかを語る。出版当時は、これからの日本がどうあるべきかを示唆すると共に実験経済学などの方面を踏まえて、これからのゲーム理論がどのように進むべきかも考えさせられた。
  • 社会的ジレンマ--環境破壊からいじめまで(2000)、山岸敏男(著)、PHP新書、\660、ISBN:4569611745
    • 前述の本が社会的ジレンマ研究のサーベイや実験経過などを理論的に解説する研究者向けの本であるのに対して、同著者のこの本は社会的ジレンマとその解決を一般向けに解説した本であった。
  • 対立と協調の科学-エージェント・ベース・モデルによる複雑系の解明 (2003)、ロバート・アクセルロッド (著)、寺野 隆雄 (翻訳)、ダイヤモンド社、\3800、ISBN:447819047X ロバート・アクセルロッド最新刊 

支配戦略

支配戦略とは

戦略形ゲームにおいては、各プレイヤーがどの戦略(選択、行動、代替案)を選ぶかを決めることが分析の主たる目的となります。

このとき1人のプレイヤーに対して

自分以外のプレイヤーが何を選んでも、自分の他の戦略よりも良い戦略(利得を高くする戦略)

があれば、その戦略を(そのプレイヤーの)支配戦略と呼びます。
プレイヤーに支配戦略があれば、そのプレイヤーはその支配戦略を選ぶと考えます。

支配戦略の例

例を挙げましょう。

支配戦略の例(コンビニ戦争2):2つのコンビニ、セレブ(セレブイレブン)とファミモ(ファミリーモール)が、まだコンビニがないA駅とB駅のどちらか一方に出店しようと考えている。コンビニを1日に利用する客はA駅が1200人、B駅が300人である。セレブとファミモがもし違う駅を選べば、利用客を独占できる。しかし同じ駅に出店すると、ファミモが人気で、ファミモはセレブの2倍の客数を獲得できる。すなわち両方がA駅に出店すると、セレブ400人、ファミモ800人。B駅に出店すると、セレブ100人、ファミモ200人である。ここで客数を利得と考える。セレブとファミモはどちらの駅に出店するだろうか?

ゲーム理論を持ち出すまでもなく、ちょっと考えるとセレブもファミモもA駅を選ぶことが分かるでしょう。B駅を独占しても高々300人ですからね。でも最初はこの例から始めましょう。

このゲームを利得行列で書くと下のようになります。

コンビニ戦争2

このときセレブの視点に立ってみましょう。セレブは

  • ファミモがA駅を選ぶならB駅(300)よりA駅(400)を選ぶほうが良い。
  • セレブは、ファミモがB駅を選んでも B駅(100)よりA駅(1200)を選ぶほうが良い。

と言うことが分かります。セレブは、ファミモが何を選んでも、B駅よりはA駅の方が良い戦略です。したがってA駅はセレブの支配戦略です(以下の図)。

セレブの支配戦略

同様に ファミモの視点に立って考えてみます。

ファミモの支配戦略

セレブは、ファミモが何を選んでも、B駅よりはA駅の方が良い戦略です。したがってA駅はセレブの支配戦略です。

もしすべてのプレイヤーに支配戦略があれば、すべてのプレイヤーが支配戦略を選ぶことがゲームの答となり、そのゲームは解けたことになると言えるでしょう。今回の例では、セレブもファミモも支配戦略はA駅でしたから、両方ともA駅を選ぶと予測でき、ゲームは解けたことになります。

支配戦略はゲーム理論における「強い解」

支配戦略は、相手の選択に関わらず、自分にとって他の選択より良いような選択がある場合です。このときプレイヤーは、相手や自分にとっての知識が完全でなくても行動を確定することができます。例えば、

(禅が好きなアリス)アリスと文太は、それぞれ禅寺に行くか、ショッピングセンターに行くか悩んでいる。アリスはとにかく禅寺に行きたいので、文太が禅寺に行っても行かなくても、ショッピングセンターよりは禅寺がいい。

この場合、アリスにとって禅寺に行くことが支配戦略になり、アリスは禅寺に行くことが確定します(だから「悩んでいる」って問題設定はおかしいんだけど)。しかも

  • 文太の利得は全く分かっていない。つまりプレイヤーに支配戦略があれば、相手の行動どころか、利得さえ分からなくても、そのプレイヤーの行動は確定する。
  • アリスも結果に対する好みがすべて確定しているわけではない。例えば「文太と一緒に禅寺に行くこと」と「アリスだけが禅寺に行き、文太はショッピングセンターに行くこと」のどちらが良いかは問題には定められていない(文太が好きなのか、嫌いなのか?)。つまりプレイヤーは、相手の選択それぞれに対する自分の好みだけが分かっていれば行動は確定する。

ということになります。つまり支配戦略があれば、細かい情報はなくてもプレイヤーはそれを選ぶことになります。このことは、支配戦略によるプレイヤーの行動の予測は、かなり確かなものになっているということで、支配戦略がないゲーム(その解はナッシュ均衡)よりも、より確からしい予測を与えているということになります。

  • 「禅が好きなアリス」は文太の好みが分からないと、文太が何を選ぶかは分からない。この例の続きは(未完)。
  • 支配戦略がない場合は、ゲームの解としてはナッシュ均衡を考えることになる。

このように支配戦略があればゲームの解は自明なように思えますが、必ずしもそうではないように見えるゲームがあります。それが囚人のジレンマであり、共有地の悲劇です。

じゃんけんで出やすい手

初心者にはパーを出せ

じゃんけんで出やすい手について。じゃんけんでは統計的にグーが出やすく、チョキが出にくいことが知られています。

もはや古典とも言える有名な結果は、桜美林大学の芹沢光雄教授のデータで「学生725人に、のべ11567回ジャンケンさせたところ グーが4054回(35.0%)、パーが3849回(33.3%)、最も少ないのはチョキで3664回(31.7%)」というものです。(例えば日本じゃんけん協会「勝利の法則」。なおこの記事は「2009年6月20日の日本経済新聞土曜版「日経プラスワン」に掲載された」とされているものが多いのですが、私が見たのはそれより前の読売オンラインでした。その記事では「卒論でそれを調べた学生がいた」というものだったと記憶しています。)

世界じゃんけん協会(The world rock paper scissors society) のホームページでも、出典は不明ながら「グーが35.4%、パーが35.0%、チョキが29.6%」となっていて(じゃんけんの戦略(rock-paper-scissors strategies)) やはりグーが一番出やすい手だと言われています。このことから、何も条件がなく初めての人とじゃんけんをするときは「パーを出すと勝つ確率が上がるので、パーを出せ」とされています。

ちなみに私のゲーム理論の講義では、この話をした後に学生とじゃんけんをしてみます。そして私はチョキを出すのですが、学生もこの必勝法を鵜呑みにして、パーを出すことはほとんどありません。相手も自分もこの事実を知っていると、その必勝法は使えません。

ゲーム理論における2人じゃんけんの解(ナッシュ均衡)は「グー、チョキ、パーを1/3の確率で出す」です。ゲーム理論では、相手が自分の行動を読んでも、自分も相手も利得がそれ以上は高くならない手を選び合うと考えます。 「グー、チョキ、パーを1/3の確率で出す」 以外の解は、それに従うことを相手が知れば、もう解にはならないのです。自分が興味があるのはこのような統計が人々に知られるようになると、人間の行動が変わり、統計が変わるのかどうかです(それについての考察はこちら)。10年後に調べてみると、じゃんけんではチョキを出す人が多くなっていると面白いですね。

2回同じ手であいこになったら、次はそれに負ける手を

他に有名な必勝法としては 「じゃんけんを続けてするときは「相手は異なる手を出しやすいので、いま相手が出している手に負けるような手を出せ」」と言うのがあります。例えばパーであいこになったとき、次は相手はパーと異なる手(グーかチョキ)を出しやすいので、グーを出せば勝つ確率は高くなる、と言ったものです。特に、2回同じ手であいこになったときは、相手が手を変える確率はずっと高くなります。例えばパーで2回あいこになったときは、3回目にグーを出せば勝つ確率はずっと高いと言われています。

関連記事

戦略形ゲームとは?利得行列とは?

戦略形ゲームは、展開形ゲームと並ぶ非協力ゲームの表現形式です(参照:戦略形ゲームと展開形ゲーム)。戦略形ゲームは、プレイヤー、戦略、利得の3つの要素から構成されます。すべてのプレイヤーは同時に戦略を選び、その結果、各プレイヤーの利得が決まります。

戦略形ゲームの例

戦略形ゲームの例として、次のような問題を考えてみましょう。

戦略形ゲームの例(コンビニ戦争1):2つのコンビニ、セレブ(セレブイレブン)とファミモ(ファミリーモール)が、まだコンビニがないA駅とB駅のどちらか一方に出店しようと考えている。コンビニを1日に利用する客はA駅が600人、B駅が300人である。セレブとファミモがもし違う駅を選べば、利用客を独占できる。しかし同じ駅に出店すると、ファミモが人気で、ファミモはセレブの2倍の客数を獲得できる。すなわち両方がA駅に出店すると、セレブ200人、ファミモ400人。B駅に出店すると、セレブ100人、ファミモ200人である。ここで客数を利得と考える。セレブとファミモはどちらの駅に出店するだろうか?

本題に入る前に言っておきたいのですが、別にこのページはコンビニの戦略の話をしたいのではなくて、ゲーム理論とは何かを話すための「例」ですからね。「両方に出店するというのはないのでしょうか」とか聞く人がいるけど(本当にたくさんいる)、そうしたければ、そういう例を勝手に考えてください。むかし、あるビジネス系の雑誌に、こういう例を出したら、雑誌の編集部の人がコンビニの会社の人に聞きに行って、そしたら「うちには『客を取り合う』という発想はない。2つのコンビニに同じ駅に出店すると集積効果があって、利用客は増える」とか言われてしまったのですが、そうならば、そういう例を作ればいいですよ。でも増えたりしたら、例として分かりにくいじゃないですか。ここはリアリティを求めてるんじゃなくて、わかりやすい例にしてるんです。

で、本題です。上記の例の場合、戦略形ゲームの3要素(プレイヤー、戦略、利得)は

  • プレイヤー:セレブとファミモ
  • セレブの戦略:A駅に出店する、B駅に出店する
  • ファミモの戦略:A駅に出店する、B駅に出店する
  • 利得:上記に書かれている客数

のようになります。このようにプレイヤーが2人のゲームを2人ゲームと呼び、その中でも両プレイヤーの戦略の数が2つの場合は2✕2ゲーム(ツーバイツーゲーム、と呼ぶ)と呼ばれます。2✕2ゲームは、戦略形ゲームの中で最も簡単なゲームであると言えます。

「利得は上記に書かれている」と言われても見にくいので、このような2人戦略形ゲームを表すには、以下のような利得行列という表を使います。

利得行列

この表では、セレブが行(水平方向)を選択し、ファミモが列(垂直方向)を選択し、交わったセルの左側の数値がセレブの利得、右側の数値がファミモの利得を表します。例えば、セレブがA駅、ファミモがB駅を選ぶと…

セレブがA駅、ファミモがB駅を選択

このようになり、セレブの利得が600、ファミモの利得が300になることが分かります。

利得行列にはいろいろな書き方があり、下の図のようにセルを左下と右上に区切り、左下に第1プレイヤー(行を選ぶプレイヤー、今回はセレブ)の利得、右上に第2プレイヤーの利得を書く場合もあります。

利得行列の別の書き方

ゲームを解く

戦略形ゲームにおいて、「プレイヤーが選ぶ戦略の組合せはどこになるのか」を求めることをゲームを解くと呼びます。ゲームを解くポイントは、支配戦略とナッシュ均衡です。

戦略形ゲームと展開形ゲーム

ものすごく乱暴に言うと「ゲーム理論(非協力ゲーム)には、戦略形ゲーム展開形ゲームがあり、戦略形ゲームは利得行列で表し、展開形ゲームはゲームの木で表す」ということになります。乱暴すぎて、かなり間違ってますが、最初から細かいことは覚えられないので、ざっくりこうしておきましょう。

さらに戦略形と展開形について、初めて学ぶときは

  • 戦略形ゲームは、プレイヤーが同時に行動を選ぶ「同時ゲーム」。代表的なゲームはじゃんけんなど。
  • 展開形ゲームは、プレイヤーが順番で行動を選ぶ「交互ゲーム」を含む「すべてのゲームを表現する」ゲーム。代表的なゲームはチェスや将棋など。

くらいに考えると良いです。これも乱暴すぎますけど。

ゲーム理論では「同時か、逐次か」と言った「時間」が重要なのではなく、相手の行動が観察できるかどうかが重要です。例えば、2人でじゃんけんをするとき、

  1. まず1人(先手)が相手に分からないように「ぐー、ちょき、ぱー」のどれかを選んで紙に書いて封筒に入れ、
  2. もう1人(後手)は封筒を開けずに 後から「ぐー、ちょき、ぱー」を選び
  3. 先手の書いた紙が公表されて勝負をする

としましょう。この場合は、時間としては交互に行動していますが、同時にじゃんけんをしているのと変わりありません(同時にじゃんけんすると、後出しっぽくなる人がいるのを考えると、こっちのほうがずっと「同時」かも知れない) 。先手は後手の行動を知らず、後手も先手の行動を知りません。この場合は戦略形ゲームになっていると言えます。

同時のゲームとは時間を指しているのではない

このように(すべてのプレイヤーが)他のプレイヤーの行動が観察できずに行動を選ぶ場合は戦略形ゲームです。オークションや競りを例に挙げれば、封印された紙に価格を書いて、最後に競り人がそれを開いて一番高額の人に出品された物を売る、と言った「封印入札」なども戦略形ゲームの典型的な例と言えます。

これに対して、チェスや将棋や囲碁では、自分より前に行動した人がどのような行動をしたかがすべて分かります。このようなゲームは完全情報ゲームと呼ばれますが、展開形ゲームで分析されるゲームの代表例です。オークションや競りでは、オークションハウスでの絵画の取引やマグロの競りなど、誰かが値段をつけたのを見て、それより高く買いたい人は更に高い価格をつける...などの「イングリッシュオークション」は展開形ゲームの典型例と言えます。同じ競りやオークションでも、ルールや形式によって違うゲームと考えられる点に注意です。

戦略形ゲームは「利得行列」と呼ばれる道具を用いて表現し、展開形ゲームは「ゲームの木」と言う道具を用いて表現します。戦略形ゲームと展開形ゲームについては、別の投稿で詳しく説明します。

非協力ゲームと協力ゲーム

ゲーム理論は非協力ゲーム(non-cooperative game)協力ゲーム(cooperative game)の2つの理論に分けられます。

ゲーム理論は、経済学の中で大きく発展したのですが、その経済学の中で扱われているのは、ほとんど非協力ゲームです。このため「ゲーム理論」と言う言葉は、非協力ゲームのことを指すことも多いです。実際に、ゲーム理論の代表的なテキストTadelis(2012)、Fudenberug and Tirole(1991) などでも協力ゲームは扱われていません。これに対し、近年ゲーム理論の研究が盛んな計算機科学の分野では、協力ゲームもそれなりに扱われ、研究されているように見えます。

非協力ゲームと協力ゲームの違い

非協力ゲームでは、プレイヤーが利得が大きくなるように行動を選びます。そして、各プレイヤーが行動を選んだ組み合わせに対し、プレイヤーの利得が与えられています。その中で、プレイヤーがどのように行動するかを明らかにすることが非協力ゲームの目的であると言えます。例えば非協力ゲームの代表的な例である囚人のジレンマは:

  • プレイヤーはA君、B君の2人
  • 各プレイヤーは「協力する」か「協力しない」かの2つの行動から1つを選ぶ
  • 各プレイヤーは次の順番に結果を好む
    • 自分が協力せず、相手が協力すれば 4点
    • 自分も相手も協力すると 3点
    • 自分も相手も協力しないと 0点
    • 自分は協力して、相手が協力しないと 1点

のような感じです。利得行列と呼ばれる表で、これを表すと以下のようになります。

囚人のジレンマの例

というモデルです。ここではプレイヤーの行動と、その行動の帰結に対して、自分が何を好むかが与えられています。このような設定で、各プレイヤーがどのような行動を選ぶのかを明らかにすることが非協力ゲームであると言えます。

これに対し協力ゲームは、プレイヤーの提携(集合、結託、グループなどと呼ばれる)に対する利益が与えられています。例えば、

  • プレイヤーはA君、B君、C君の3人。大道芸をして稼ごうとしている。
  • A君、B君、C君は1人ずつだと1日の利益は、それぞれ2千円、3千円、5千円
  • A君とB君が一緒に組むと(これが「提携」)利益は1万5千円になる、B君とC君だと1万円、A君とC君だと2万円。
  • A君、B君、C君が3人で組むと、利益は3万円

と言ったモデルです。上記の設定は利得行列の代わりに、以下のような表で書くことができます。

協力ゲームの特性関数

上記の表は特性関数と呼ばれることから(本当は表ではなく、関数で書く)、協力ゲームは特性関数形ゲームとも呼ばれます。

非協力ゲームと違い、プレイヤーには選ぶ「行動」がなく、提携に対する利益だけが与えられています。このような設定で、全体の利益を個人にどう配分するべきか(配分されるのか)、を明らかにすることが協力ゲームであると言えます。 上記であれば3人で協力して2万円の利益が得られたときに、その利益はA,B,Cにどのように分配されるのか、を明らかにすることが協力ゲームの目的であると言えます。

※「どのような提携が最終的に組まれるのか(全体提携が組まれるのか)」「そのとき利益はどのように分配されるのか」 を問題にすることもある。

なぜこのような違いが?

協力ゲームの特性関数は、もともとは非協力ゲームをベースにもとにして作られていました。例えば上の囚人のジレンマで特性関数を作ってみましょう。(本当は3人のゲームでやりたいのですが、3人の非協力ゲームや利得行列はややこしいので。)

各プレイヤーは個人では、最低限の利得として0を獲得できます。一方、2人が協力すると合計の利益として6が獲得できます。したがって、囚人のジレンマの特性関数は

囚人のジレンマの特性関数

と書けます.

あれれ「書けます」とは言ったものの、本当にこれでいいのでしょうか?実は、ここに3つの問題点があることが分かります。

問題点1:全体の提携の利益を6にしているが、そもそも2人が協力できるなら囚人のジレンマなんて考える必要がない!個人の利益も0でいいの?

協力ゲームでは、提携の利益が本当に実現するのか、という問題が残ります。このため協力ゲームは提携を組んだときにその提携の利益が確実に得られる「拘束的合意」と呼ばれる合意が存在することが、前提になっているとも言われます。

このようにもともとは協力ゲームは、非協力ゲームの設定が与えられ、そこから各提携の利益が拘束的合意を前提に導かれるという形式が、出発点でした。しかしそれならば、その非協力ゲーム自身を分析して、それを個人の分配そのものと考えれば良いので、なんで非協力ゲームを考える必要があるの?、というわけです。

問題点2:提携の利益を考えるときに2人の利益を足している

これ足せるの?そして分配するときに、足した合計の利益を分けられるの?という問題があります。これについては、ゲーム理論における効用とは何か、というさらに深い問題に入り込まなければならないので、ここでは省略します。このような特性関数ゲームでは、各プレイヤーにとって価値尺度を共通して測れる(貨幣のような)別払い(side payment)と呼ばれる方法が存在することが前提とされます。

問題点3:たとえ拘束的合意と別払いがあったとしても、3人以上のゲームで、提携内と提携外でプレイヤーが何を選んだ場合を、提携の利益と考えるのか?

という問題があります。例えばA,B,Cの3人がいてAとBの提携の利益を求めたいとき、拘束的合意があって、AとBは2人の合計利益を最大にするように行動すると仮定しても、Cがどの行動を選ぶかで利益が異なってしまいます。

フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンが考えた古典的なゲーム理論では、提携をまとめて1人のプレイヤーと考え、提携外のプレイヤーをまとめて1人のプレイヤーと考え、問題を2人ゲームに帰着させました。そして、そのゲームの解を提携の利益としています。しかし、その考えでいいのかという問題はありますし、フォン・ノイマン達が考えたゲームは零和ゲームだったので、2人ゲームの解のプレイヤーの利益は一意に決まるのですが、非零和ゲームではナッシュ均衡は複数あることもあり、利得も一意には決まりません。

協力ゲームは規範的な問題には効果的

目的によっては、協力ゲームのようなモデル化が便利な場合もあります。特に「どのような行動が選ばれて、どのような利益が得られるか」という「どうなるか(記述的理論)」ではなく、「提携ごとの利益から、どのように利益が各プレイヤーに配分されるべきか」という「どうあるべきか(規範的理論)」として活用できることが、協力ゲームの利点でもあります。

協力ゲームも非協力ゲームも、共にゲーム理論として発展してゆくべきだと私は考えています。

一般の方に向けた原稿など

  • ゲーム理論に関する一般向けの文章など(査読なし論文)はこちら
  •  特に最近のリスト
    • 「初歩から学ぶゲーム理論 ―ORにおけるゲーム理論入門―」、オペレーションズリサーチ、2015年6月号.
    • 「企業経営に活かすゲーム理論(前・後編)」、渡辺隆裕、調査月報、10月号,38-43, 11月号,38-43, 2014。
    • 「ゲーム理論入門/「ゲーム理論」は数学か?」、渡辺隆裕、数学セミナー、2014年10月号、 636号、ゲーム理論の数理。
    • 「経済学では公共工事をどうみるか」(もし経済学で日本の公共工事を論じたら第1回) 建設マネジメント技術, 3-6, 2013.
    • 「囚人のジレンマから見る価格競争」(もし経済学で日本の公共工事を論じたら第2回), 建設マネジメント技術, 32-37, 2013.
    • 「経営者のためのゲーム理論入門」(第1回-第18回)、戦略経営者(TKC全国会)、2011年4月号から2012年9月号まで連載。
    • 「ゲーム理論のキーワード」, 現代思想, vol.36, 44-57, 2008.
  • なお、研究論文(査読付き論文)リストはこちらを。学会発表はこちらを。