オークション理論の本

オークション理論を勉強するために参考となる本をいくつか紹介しておきます.

“Auction Theory, Second Edition”,Vijay Krishna, Academic Press, 2009.
オークション理論の最も優れたテキスト.単一財の独立価値モデル,価値依存モデル,メカニズムデザインと最適オークション,非対称均衡の分析,複数財のオークションと必要な理論が網羅されていて,しかも確率理論の必要となる部分(特に順序統計量と確率順序)がすべて付録に書かれている.数学記号の使い方も厳密で且つ簡潔で,他分野でもこれほどよくできたテキストは珍しい.真面目に勉強したいならばこれでやりましょう.なおfirst editionは2002年に書かれており,まだ売っていてKindle版もある.
あくまでも厳密な理論を学ぼうと言う人向けです.
「マーケットデザイン入門」,坂井豊貴,ミネルヴァ書房,2010.
Krishnaの本は英語だし重厚なので,まず「日本語で簡潔にオークション理論」を学びたいというなら,これが良い.単一財,複数財のオークションのエッセンスが書かれている.著者の坂井豊貴氏はメカニズムデザインの研究者として知られ,本書もマーケットデザインの入門書として前半をオークション理論に,後半をマッチング理論に割いている.
なお,あくまでも厳密な理論を学ぼうと言う人向けです.
「オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで」,ケン・スティグリッツ (著), 川越敏司・佐々木俊一郎・小川一仁 (翻訳),日経BP社,2008.
“Snipers, Shills, & Sharks: eBay and Human Behavior,” Ken Steiglitz, Princeton University Press, 2007の翻訳.翻訳者の中心である川越先生は実験経済学の研究者として知られ,オークション理論にも詳しい.本書も,オークション理論だけではなく,実験経済学や行動経済学の知見や,ネットオークションも盛り込まれており,付録にはオークション理論の簡潔なサーベイがあるので,これを勉強すると良い.理論をしっかり学ぼうと言う人でなくても,何とか読めます.
「オークション理論の基礎」,横尾真,東京電機大学出版局,2006.
著者の横尾先生は計算機科学でのオークションとメカニズムデザインの研究者として有名. この本は,計算機科学で特に重要な複数財オークションや架空名義入札という概念を中心にして,オークション理論の考え方やゲーム理論の考え方を初歩から分かりやすく説いている本である.誰もが読むことができます.
オークション理論は,不完備情報ゲームという「確率」や「均衡」の概念を用いているが,横尾氏を中心に計算機科学分野で使われるVCGメカニズムというオークションは耐戦略性という性質を重要視していて,この性質を中心として理論を展開する場合は,確率計算をあまり必要としない.このような分野からオークションを知りたい者には,最良の本であると言えます.
“An Introduction to Auction Theory,” F. M. Menezes, P. K. Monteiro, Oxford University Press, 2008.
洋書を含めてもオークション理論をきちんと説明している本は少ないが,この本はそのうちの1つである.「Krishnaを1冊読みきるのは難しいので,少ない分量で...」というならこの本はどうだろうか.変わった数値例があって面白い.でも,あくまでも理論を学ぼうと言う人向けです.
「メカニズムデザイン」,坂井豊貴・藤中裕二・若山琢磨,ミネルヴァ書房,2008.
メカニズムデザインで知られる3人の研究者によって書かれた本で,4章にオークション理論が載っている.本書はメカニズムデザインの一般的な理論を展開し,その適用例としてオークションを捉えたもので,その点では類を見ない本である.メカニズムデザインにも興味があるという者には,先に挙げたマーケットデザイン入門とともに読むと良い.
“Putting Auction Theory to Work,” Paul Milgrom, Cambridge University Press, 2004.
オークション理論の第1人者Paul Milgromによる本なので,是非手にしたい.単一財・複数財,独立価値・依存価値など,様々な文脈におけるオークション理論の展開が上記の本とは異なる構成で書かれている.また「積分包絡線定理」という彼のもう1つの研究成果から,オークション理論を捉えようとした意欲作でもあり,彼が携わったオークションの実際の設計に関する理論の適用も書かれている.ただ,数学の記法がやや煩雑でしかも曖昧さがあり,行間が激しく飛んでいる部分もあるので,それを埋めて厳密に理解しようとすると,なかなか大変である.なお翻訳書「オークション 理論とデザイン」,Paul Milgrom (原著), 川又邦雄・奥野正寛(監訳), 計盛英一郎, 馬場弓子(翻訳) があるのもうれしい.

講義資料

私のオークションに関連する講義資料を集めました.

中央大学講義(2012)
中央大学大学院の講義「社会と技術の数理」で,毎年1時間の講義時間を頂いて2008年から2012年まで講義をさせて頂きました.2012年のスライドのpdfファイルです.内容は,いろいろなオークションの紹介と,利潤等価定理の紹介,ネットオークションの原理と入札の戦略などです.初心者向けです.

慶応大学今井研セミナー(2010)
共同研究者である慶応大学大学院管理工学科今井潤一先生の研究室に呼ばれ,4年制と大学院生を相手にセミナーを行った時の資料です.第1回は初めてオークションの理論に触れる概論で,上記の中央大学の講義に近い内容になっています.第2回は,理論の入り口として,厳密に数式を展開し,(1)モデル化(2)第1価格入札の均衡戦略導出(3)第2価格入札の戦略の説明(4)利潤等価定理について説明しています.

単一財のオークション

単一財のオークションはオークション理論の基本となるもので,大きく2つの形式に分けられます.1つは絵画やマグロの「競り」のように,他者の入札価格を知りながら動的に行動するもので公開オークション(open auction)と呼ばれます.公開オークションは,マグロや絵画の競りのように,値段が上昇していく競り上げ式オークション(ascending auction)が一般的です.これはオークション理論では英国式オークション(English auction)と呼ばれます.これに対し公開オークションには価格が下降していく競り下げ式オークション(descending auction)もあり,オランダの花市場が代表的な例であることからオランダ式オークション(Dutch auction)と呼ばれています.

公開オークションに対して,希望価格を紙などに書いて主催者に渡すなど,他者に価格が分からないようにして入札を行うオークションは,封印オークション(sealed bid auction)と呼ばれます.大雑把に言えば,公開オークションは「競り」に,封印オークションは「入札」に対応するものです.封印オークションは,最高額入札者が自分の価格(第1位価格)で購入する第1価格オークション(first price auction)が一般的で,古書や古文書の入札などがこれに対応します.これに対して,最高額入札者が自分の次に高い価格(第2位価格)で購入する第2価格オークション(second price auction)と呼ばれるものがあり,オークション理論では重要な役割を果たしています.このオークションは動的な「競り」である英国式オークションを,静的な入札である第1価格オークションと比較するために第1価格オークションに対応させるためVickrey (1961) が考えたもので実際にはあまり例がないと思われていましたが,Lucking-Reiley (2000) は切手のオークションが,多くはこのタイプであることを明らかにしました(後に紹介するLucking-Reileyの本も参照のこと).

ネットオークションが出現する前までは,上記の4つのタイプが主なものでしたが,オークションネットオークションでは自動入札方式(proxy bidding)と呼ばれるオークションが出現しました.これは上記の英国式オークションを計算機が自動的に実現するもので,英国式オークションと第2価格オークションの中間形式と考えることができます.

単一財オークションの形式(まとめ)

 公開オークション 英国式オークション(競り上げ式)
オランダ式オークション(競り下げ式)
 封印オークション 第1価格オークション
第2価格オークション
 ネットオークション 自動入札方式

オークションの種類

オークションは様々な形があります.狭義には,売り手が1人で買い手が多数で財を取引するものをオークションと呼びます.絵画のオークション,マグロの競り,中古車のオークションなど1つの財を取引するものを単一財(single-unit)オークションと呼び, 多数の財を取引するものを複数財(multi-unit auction, multi-object auction)オークションと呼びます.複数財のオークションには,多数のワインのロット,国債,木材など同質・同一の財を多数売る場合と,周波数や空港のハブなど異質の財を複数 売る場合とで考え方や分析方法が異なります.後者の方は,財の組合せ効果(シナジー効果などとも呼ばれる)を考えてオークションの方式を設計する必要があり,近年になって大きく研究されているテーマでもあります.

公共事業入札などは,買い手が1人で売り手が複数ですが,オークションの理論の売り手と買い手を逆にすることで同じモデルで解析できるとされています(実際には,入札の参加者が提供する財の品質の違いがあり,同じ問題にはならない).また,証券取引所などで取引される株や債券は売り手と買い手のそれぞれが複数いてダブルオークション(double auction)と呼ばれます.これは需要と供給によって価格が決定される経済学の(通常の)市場に近いものなので,オークションと考えるよりも一般の市場を解明する部分均衡モデルを当てはめて分析されることが多いです.