wordpress:投稿記事を決まった順序で出力する

「初歩からのゲーム理論」は講義形式のために、ある決まった順序で読んでもらう必要がある。しかし投稿は必ずしもその順番に作成しているわけではないので、日付順に並べられても困る。日付を書き換えるという手もあるが、やりたくはない。意外と簡単にできたので記しておく。

(1)カスタムフィールドの作成

カスタムフィールド ‘syoho_od’ を作って、そこに並べたい順番に番号をつけた。途中で、順番を変えたり、新しい投稿を途中から挿入することも考え、1から順番につけるのではなく、いくつかの「章」に仮に分け、0章は1,2,3…、1章は101,102,103…、2章は201,202,203、のように番号付けをした。

各章にはそれほど多くの記事はない。したがって、新しい記事を途中から挿入したくなったとき、例えばそれを1章の4番めに入れたかったら、104をつけて、現在の104以降の番号を105,106,107…とつけ直し1章の番号を振り直すだけで足りるからである。

カスタムフィールドの作成についてのweb記事はいろいろあるが、これやこれ簡単。プラグインを入れないと作れないように読める記事もあるので注意。

(2)カテゴリ’gametheory_lecture’が呼び出されたときのみの処理

自分のwordpressでは、カテゴリ 「初歩からのゲーム理論」 が呼び出されたときのみ、違う処理が呼び出されることになっており、その内容が’list_web_kougi1.phpに書かれている。これについてはこちら(「投稿の最初の200字だけを出力」)を参照。

そのクエリの設定に ’meta_key’ => ‘shoho_od’, 、 ‘orderby’ => ‘meta_value_num’ を付け加える。詳しくはこちら

  • orderby は投稿の並べ替えを指定するパラメータで、初期値は’date’。なので何もしないと日付順に並べられれている。
  • orderbyにmeta_value_numを指定すると、メタフィールドの値で、並べ替えを行う。
  • このmeta_value_numは meta_key が指定されているときのみ有効なので、 meta_key に shoho_odを指定する。
  • ‘order’ => ‘ASC’も加える。これは昇順での並べ替えを示す。

‘list_web_kougi1.php の詳しいコードは以下の通り。

<!-- 記事を200字出力し、続きを読むにリンクを貼る出力 -->

<h2>初歩から学ぶゲーム理論-WEB講義</h2>
<h3>最新の投稿</h3>
<ul>
<?php
$wp_query = new WP_Query();
$args = array(
'post_type' => 'post',
'post_status' => 'publish',
'category__in' => 8,
'posts_per_page' => 20,
'meta_key' => 'shoho_od',
'orderby' => 'meta_value_num',
'order' => 'ASC'
);
$wp_query->query($args);
if($wp_query->have_posts()){
?>
<?php
while (have_posts()) {
the_post();
?>
<!-- 出力部分 -->
<?php $naji_title=get_permalink(); ?>
<h4><a href="<?php echo $naji_title; ?>"><u>
<?php the_title(); ?></u></a></h4>
<?php
if(mb_strlen($post->post_content,'UTF-8')>200){
	$content= str_replace('\n', '', mb_substr(strip_tags($post-> post_content), 0, 200,'UTF-8'));
	echo $content.'<a href='.$naji_title.'><u>(.....続きを読む)</u></a>';
}else{
	echo str_replace('\n', '', strip_tags($post->post_content));
}
?>
<!-- 出力部分 -->
<?php
}
wp_reset_query();
}
?>

wordpress:投稿の最初の200字だけ出力

投稿記事の最初の200字を出力し、「続きを読む」にする

「初歩から学ぶゲーム理論」というカテゴリーが呼び出されたときだけ、最新の投稿から記事内容を200字だけ出力することにした。

(1) list_web_kogi1.phpと言う、以下のファイルを作成。

<!-- 記事を200字出力し、続きを読むにリンクを貼る出力 -->

<h2>初歩から学ぶゲーム理論-WEB講義</h2>
<h3>最新の投稿</h3>
<ul>
<?php
$wp_query = new WP_Query();
$args = array(
'post_type' => 'post',
'post_status' => 'publish',
'category__in' => 8,
'posts_per_page' => 10,
'order' => 'DESC'
);
$wp_query->query($args);
if($wp_query->have_posts()){
?>
<?php
while (have_posts()) {
the_post();
?>
<!-- 出力部分 -->
<?php $naji_title=get_permalink(); ?>
<h4><a href="<?php echo $naji_title; ?>"><u>
<?php the_title(); ?></u></a></h4>
<?php
if(mb_strlen($post->post_content,'UTF-8')>200){
	$content= str_replace('\n', '', mb_substr(strip_tags($post-> post_content), 0, 200,'UTF-8'));
	echo $content.'<a href='.$naji_title.'><u>(.....続きを読む)</u></a>';
}else{
	echo str_replace('\n', '', strip_tags($post->post_content));
}
?>
<!-- 出力部分 -->
<?php
}
wp_reset_query();
}
?>

(2) category.php の途中の適切な部分(ループの前)に以下を挿入

if (is_category('gametheory_lecture')):
include('list_web_kougi1.php');
else:
  • gametheory_lecture:「初歩から学ぶゲーム理論」のカテゴリ名(スラッグ)
  • 自分が使っているテーマ twelveseventeen はcategory.phpを用いず、すべてpage.php で出力を行うため、まず page.phpを複製し、それをcategory.phpという名前のファイルに変えた。

クールノー競争とベルトラン競争入門(1):不完全競争市場

クールノー競争とベルトラン競争って何なのか?って、話から始めます。計算から行きたい人は独占市場の価格決定へ行くと良いでしょう。

完全競争市場と不完全競争市場

経済学では、最初に完全競争市場(perfectly competitive market)という市場を学びます。そこでは

  • 消費者や企業は多数いて、価格受容者(その行動によって価格が変化しない)
  • 企業は価格を所与とし、生産量を決めて、利益を最大化する
  • 企業は限界費用と価格が等しくなるように生産量を決める
  • 分析道具は、需要曲線と供給曲線 (部分均衡)で、需要曲線と供給曲線が交わったとこで価格と取引量が決まる

とされています。これは「古典的な」市場理論と言えるもので、経済学の考え方の基礎となります。農業なんかだとこの考えは当てはまるし(キャベツの生産者は、自分の生産によって、市場のキャベツの価格が変化するとは思わないでしょう)、経済学が作られた頃は企業とか今のようではなかったし、このように単純化すると経済の問題をシンプルに扱うことができるのでうれしいっす。しかし、

企業は価格を所与として、生産量を決めて、利益を最大化する

という部分は、現在の経済ではとても問題となります。実際に、現在の多くの市場では、企業は価格を所与だと考えているとは思わないでしょう。自分自身が価格を決めたり、もしくは自身の生産が価格に影響を及ぼすことを考慮したりして、意思決定をする場合が多いと思われます。

そこで近年の経済学の研究では、不完全競争市場(imperfectly competitive market)を考えることが多いです。これは企業の数が1つ(独占市場)だったり、2つ(複占市場)だったり、少数(寡占市場)だったりする市場です。ここでは企業を価格決定者であると考え、企業の行動によって価格が決まります。

企業が1つの独占市場の問題は簡単でしたが、2つ以上のときは企業の相互作用がどのように価格や生産量に影響を及ぼすかを考えなければなりません。このとき中心となるのはゲーム理論であり、これによって不完全競争市場は大きく発展し、産業組織論(政策が企業の行動にどのように影響を及ぼす考えたりする)国際経済学などの分野に大きく応用され、近年は経営戦略にも応用されるようになったのでした。

クールノー競争とベルトラン競争

ざっくりいうと、2社以上の企業の不完全競争市場を扱うモデルのうち、クールノー競争は企業が生産量を決定するモデル(生産量競争)で、ベルトラン競争は企業が価格を決定するモデル(価格競争)です。

クールノー競争:各企業は生産量を決定する(生産量競争)
ベルトラン競争:各企業は価格を決定する(価格競争)

このとき各企業が生産する財が同質財か、異質財か、でモデルが大きく分かれます。

同質財の市場と言うのは、すべての企業が生産する財が全く同じで、消費者は企業ごとの財の区別をしません。生産量競争では、全企業が生産した財の合計(=市場全体の生産量)によって財の価格が決まり、その価格はすべての企業の財の価格になると考えます。価格競争では、一番安い価格をつけた企業からすべての消費者は財を買うと考えます。各企業の財は1つの市場、1つの需要曲線で表現されます。

異質財の市場は製品が差別化された市場です。各企業ごとに別の市場があり、相手企業の価格や生産量は、自企業の製品の需要量に影響を及ぼしますが、その需要関数は各企業ごとに与えられます。

通常、クールノー競争と言うと同質財のクールノー競争を指します。これに対し、ベルトラン競争は同質財と異質財の両方を指すことが多いようです。

クールノー競争 vs ベルトラン競争

ゲーム理論では、各プレイヤーが行動するタイミングは、ゲームを決める重要な要素です。上記のモデルは、企業は、相手企業の価格や生産量を知らずに、自社の価格や生産量を決定すると考えています。言わば「同時に」決定すると考えています。

これに対して、各企業が逐次的に価格や生産量を決定するモデルもあります。2社の生産量競争で、1社が先に生産量を決定し(先手)、それを見てもう1社が生産量を決定するモデルはシュタッケルベルグ(Stackelberg)競争と呼ばれます。

クールノー競争:2社が同時に生産量を決める
シュタッケルベルグ競争:2社が先手と後手で逐次的に生産量を決める

2社が先手と後手で価格を決めるモデルもありますが、特に名前はついていません。
※経済学では特に名前はついていませんが、情報学やORなどでは最近、2人ゲームの先手と後手のあるゲームをすべて「シュタッケルベルグゲーム」と呼ぶことが多いです。

次は独占市場の価格・生産量と社会的総余剰へ。

賞金額の高いナンバーズの番号

(以前のサイト(2010年頃)に人気が高かった記事です。内容が古くなってしまったのですが、未だにアクセスも多いようなので、再度掲載します。内容が古いことに注意してください。)

番号は予測できないが、期待値が高くなる番号はある?

ナンバーズの番号を予測する?では「ナンバーズの当選番号の系列を見ると偏りがあって予測できそうな気になることもあるが、それは乱数や確率に対する錯覚である」という話をしました。ナンバーズの当選番号はほぼランダムで、当選番号を予測する方法はないと考えられます。しかしナンバーズでは、その当選番号を選んだ人が少なければ、当選者の賞金は多くなります。これは賭けられた金額を(主催者が控除した後に)当選者で分けるナンバーズの仕組みによるものです。したがってナンバーズでは皆が選ばない「不人気な数」を選ぶことで賞金が高くなると考えられます。賭けの分類において、ナンバーズを「勝つチャンスは完全に運によるが、利得は技術により高くなる」というクラスに分類した理由です。

 ナンバーズ3のストレート(3桁の数字をその順番も含めて当てる)を例にして、人気・不人気な数を考えてみます。表1は、第41回から第600回までの560回のナンバーズのうち、いくつかの条件に当てはまる当選番号の出現回数と賞金の平均金額を表にしたものです。(最初の40回をはずしたのは、このような「くじ」は開始直後には傾向が安定しないと考えたからです。)

表1 ナンバーズ3ストレートの条件別平均賞金額(第41回から第600回まで)

「4と9の両方がつき、同じ数が2つ並び、日付に読めない」数を狙え

560回すべての平均賞金額は98,747円です。当選確率が1000分の1であることを考えると期待値は約99円です。ナンバーズは200円で、主催者の控除率は約50%なので、期待値はまさに理論通りであることが分かります。ちなみに、通常の宝くじも控除は約50%で、宝くじはわりに合わないギャンブルであることが分かります。

どんな数が人気・不人気なのか考えてみましょう。まずロトなどでも知られていることですが、人は誕生日や記念日などをラッキーナンバーとして選ぶことが多いようです。したがって、日付に読める数に比べ、日付に読めない数は人気がないと考えられます。例えば、私の誕生日は6月28日ですが、これに相当する628などは日付に読める数です。これに対し、一般的に下二桁が32以上の数は日付に読めません。ここで3月5日などは305と考え、035とは読まないこととしました。表を見ると、日付に読める数は平均を下回り、読めない数は平均を上回ることから、この考え方がある程度正しいことが推測されます。

またホテルの部屋番号などで分かるように、日本人は「死」を意味する4や「苦」を意味する9という数を忌み嫌う傾向にあるため、このような数も不人気と考えられます。確かに4や9がつく数も平均を上回っており、特に4と9の両方がつく数は111,664円と高い平均賞金額となります。

同じ数が3つ並ぶ数字は560回のうち8回出ていますが、いずれも賞金はぐっと低くなります。例えば第309回には777が出ていますが賞金は57,100円です。第600回までの最低賞金額は第476回の39,800円ですが、この時の当選番号は111です。ナンバーズで3つ同じ数字となる数を選ぶほど馬鹿なことはない。これに対し、同じ数が2つだけある数字の賞金は非常に高くなることが分かります。これらは人気・不人気だけではなく、ボックス・ストレートに対するナンバーズの賞金配分の仕方にも理由があるかもしれませんが、詳細は分かりません。

これらをすべて合わせて「4と9の両方がつき、同じ数が2つ並び、日付に読めない」という条件を満たす数(994,494など)を見てみると、このような数は4回出ており平均賞金額は155,650円と非常に高くなることが分かります。

ちなみに表2は第1回から600回までのナンバーズの高額賞金のベスト10です。この表を見ても「2つ同じ数があり、4か9がつき、日付に読めない」数は賞金が高いことが裏付けられます。ちなみに最高金額は第2回の988で、初期の頃の不安定さも重なって高額の当選金になっています...

表2 第1回から第600回までのナンバーズ3ストレート賞金額ベスト20

ナンバーズのちょっと良い数が分かりました。しかし残念ながらこのような不人気番号は、それが知れると皆が選ぶために人気番号となってしまいます。もう、遅いかもしれません。これについては機会をみて、もう少し考察を加えてみたいと思います。(じゃんけんに必勝法と...も参照してください)。

いやそれより、1番不人気な「2つが同じ数で日付に読めずなおかつ4か9が付く数字」を買っても期待値はかなりマイナスです.そこが問題ですよね…

このような傾向は既に知られており、「スポーツくじと宝くじの賭けの市場の効率性」,ファイナンスハンドブック 18章,今野浩・古川浩一監訳,1997、朝倉書店(私が翻訳)でも、同様の傾向が述べられています。

(参考文献)「スポーツくじと宝くじの賭けの市場の効率性」,ファイナンスハンドブック 18章,今野浩・古川浩一監訳,1997、朝倉書店。(原本はJarrow, R. A., Masksimovic, V. and Ziemba W. T. eds.,Handbooks in Operations Ressearch and Mangement Science,vol.9 Finance, Ch18.)

賭けの定義番外編:金融工学とゼロサムゲーム

白川浩先生の講演

このサブサイト「賭けの科学」における賭けの定義

「賭け」とは、金銭を利得とするゼロサムゲームである

とさせて頂きました。これは賭けの定義というよりは、このサイトが扱う対象の定義と考えた方が良いかもしれません。

さてこの定義を書きながら思い出したのは、東京工業大学に理財工学研究センターが設立されたときの白川浩先生の講演です。白川浩先生は、私の出身である東工大経営工学専攻の森研究室の先輩で、若くして亡くなられた研究者です。彼の研究者人生は、今野浩著「すべて僕に任せてください―東工大モーレツ天才助教授の悲劇」に壮絶に描かれているので、ぜひ読んでみてください。私が見た白川さん像は、今野先生が描くものと必ずしも一致していませんが。

白川さんは、東工大の理財工学研究センターの設立に尽力され、その設立時の中心となられました。その設立記念かなんかのシンポジウムに私は出席し、そこで白川先生は基調講演のようなことをされていました(記憶は曖昧)。白川先生が、その講演で強調されていたのは「金融工学で扱う対象はゼロサムゲームではない」ということでした...私は、この話にたいそう感銘を受け、回りを見渡したのですが、回りは皆んな「何を言っているのか、分からない」という感じでした。出席者の多くは、東工大の方、もしくは金融工学関係者の方で、経済学の方はほとんどいなかったように思えます。したがって彼が言っている意味、そして、その意図についてはほとんど理解されていないように感じました。白川先生の言葉を私なりに解釈してみると、以下のようになります。

当時、金融工学や理財工学は、ギャンブルに勝つための方法を研究していると言う人が多くおりました(今でもそうでしょうかね)。特に当時の東工大は「ものつくりこそが重要」と考えていて、金融工学という分野を東工大が扱うには反対の者が多かったと聞きます。今野先生の著書「ヒラノシリーズ」に、この話がいっぱい出てきます。「ものを作ることは経済を発展させ、人々を幸せにするが、金融工学はそうではない。個人のお金儲けのための学問ではないか、そんなものをやるのはケシカラン」と、そう考える者も多かったのです。

白川先生は「金融市場とは、限られた資金を本当に必要とする企業や生産者に回すことで経済を成長させ、皆んなが幸せになるためにあるものだ。しかし、経済や投資には不確実性があり、それによって高いリスクが投資を妨げたり、多くのお金が一瞬にして失われたりする。金融工学は、金融市場での取引におけるリスクをコントロールし、リターンを大きくすることによって、多くの人が幸せになることを目指す学問である。誰かが儲けて、誰かが損をするゼロサムゲームを扱うのではない、皆が幸せになるウインウインのノン・ゼロサム・ゲームを扱うのだ」と言いたかったのではないでしょうか。「良いものを作る」だけではなく、良いものを作るところに資金が回らなければ産業も経済も発展しない。東工大にこそ金融工学は必要なんです、と理財工学研究センターの開設にあたって、東工大の先生方にそう言いたかったんではないか、と思ったのです。

だのに、なぜ?

「だのにー、なぜー♪」は「若者たち」という有名な歌の一節で、子供の頃にこの「だのにー」ってとこがすごく引っかかってました。「こんな言葉を、歌詞に使っていいのか?」と(「だのに」は、ちゃんと辞書に載っているそうです)。

白川先生の気持ちを知り、良い話をしておきながら、だのに、なぜー、私はこのサイトで、非生産的なゼロサムゲームである「賭け」について語ってしまうのでしょうか?

それは、その答はおいおい述べて行く(これから考えていく)ことにしたいと思います。

ナンバーズの番号を予測する?

20回までのナンバーズ3の番号の60個の数字を考察する

ナンバーズは物理的な機械でランダムに数が選ばれるため、競馬やTOTOなどと異なり当選番号を予測することができないと考えられます。しかし、過去の当選番号の系列を調べてみると、傾向があるように思えて番号が予測できるような気がしてきます。

このような「確率・統計上のゆらぎ」と「人間の幻想」については多くの文献が考察をしていますが、ここでは、1つの例を取りあげ、このような幻想について考えてみたいと思います。

このような傾向の中で一番単純なものは、頻度の多い数と少ない数を調べるものです。ここでは、ナンバーズ3の20回目までの当選番号において、どの数字が何回出たかを調べながら、このことを考えてみます。皆さんもここで、ナンバーズが始まって、まだ20回の時の気持ちになり、考えてみてください。

ナンバーズ3は1回の抽選で3つの数字が選ばれて、それを当てるくじです。20回までには、合計60個の数字が出現します。以下の表1には20回までの当選番号、表2には各数字の出現個数をまとめました。

表1:ナンバーズ3 第1回から第20回までの当選番号

表2:ナンバーズ3における数字の出現回数と出現比率 (第20回まで)

ここで20回目までの当選番号を見ると、6が1回しか出ていません。20回までには全部で60個の数字があり、平均で1つの数字は6回も出現するのはずなのに、たったの1回!これは何らかの傾向があると言わざるを得ない!という気になってきます。

まず、これはそんなに起こり得ない現象なのでしょうか?そこで10個の数から、でたらめに1つ数字が60回選ばれる時に「6」が1回以下しか出ない確率を求めてみましょう。まずはじめに「6」が1回も出ない確率を求めてみると、これは6以外の数字が60回すべて選ばれる確率であり、$$0.9^{60}=0.002$$ となります。次に「6」が1回だけ出る確率を計算するとです。合計すると「6」が1回以下しか出ない確率は$$_1 C_{60}\times 0.1 \times 0.9^{59}=0.014$$で、1.4%の確率でこのような現象が起こることが分かります。しかし、「6」に限らずに、少なくとも1つ以上の数字が1回以下しか出ない確率と考えると更に高くなるわけで(約14%)、このようなことは決して珍しい事ではないことが分かります。


表3:ナンバーズ3における第700回までの数字の出現回数と出現比率。1-20は1回目から20回目まで、21-700は21回目から700回目までを表す。

20回目以降に6が出やすいわけでも、出にくいわけでもない

20回目以降に6が出やすいわけでも、出にくいわけでもない
20回目まで、ほとんど6は出ていない。しかもそれ以降も6の出現確率は低い。これではやっぱり6が出にくいのかと言えば、そうではありません。20回目までの6の出現比率が1.7%であったのに対して、600回目までの合計の出現比率は9.1%になり10%にぐっと近づいていることが分かります。数の出現比率が10%に近づくのは、21回目から600回目までの全体の個数が多くなり、20回目までの影響が無視できるほど小さくなったからで、6が多く出たからではないのです。6に限らずすべての数字の出現比率を見てみると、20回目まででは1.7%から18.3%と幅があるのに対し、600回目になると9.1%から11.4%と、10%の周りに近づいていることが分かります。

大数の法則から、サンプル数が多くなれば10個の数の出現比率は確率上の平均値である10%にに近づいて行きます。しかし、平均値に近づくまでにはかなりのサンプル数が必要となることが分かります。単純な数の出現比率だけでこうですから、「3が出た次の回には6が出やすい」「前々回に3が十の位に出現し、前回に9が出た場合は、今回は1が出る」というように法則を複雑にすればするほど、その偏りが平均に近づくまでの回数はかなりの時間を要する事が分かります。(要するに複雑な予測方法は、誤りである事も簡単には検証できない。)

賭けの分類

本サブサイトで扱う「賭け」は、通常考えられているギャンブルよりは広く捉えて、「金銭を利得とするゼロサムゲームである」と定義しました(賭け・ギャンブル・ゲームの定義)。ここでは「賭け」をいくつかに分類し、それを取り扱う学問分野について考えてみます。

不確実性があるか、ないか

このサイトでは賭けを「ゼロサムゲーム」であるとしましたが、一般に賭けとは「運や不確実性を伴って利得が変化するゲーム」と考えられるでしょう。このように不確実性があるか、ないか、は賭け・ギャンブル・ゲームを分類する最大の要素であると思います。

  • 不確実性がない賭け
    • 将棋、囲碁、オセロ etc...
  • 不確実性がある賭け
    • ブラックジャック、バカラ、スロットマシンなど、カジノにある遊戯
    • 麻雀、バックギャモン、ブリッジ、ポーカー
    • 競馬、宝くじ、競艇

不確実性がない賭けは、ここで「賭け」とは呼んでいるものの、一般には「ゲーム」と呼ばれることが多いでしょう。このような不確実性がない完全情報ゲーム(同時に行動することはなく、相手が何を選んだかがすべて分かるもの)は「組み合わせゲーム(combinatorial game)」や「game with no chance」などと呼ばれており、数学や計算機科学の分野で研究されています。ざっくり言うと「数学者が大好きな分野」です。参考となる書籍とページを以下に挙げておきます。

不確実性があるかないかで、学問分野は大きく分かれています。決定的な違いは「確率」が使われるかどうかです。両方を取り扱う研究者はあまりいません。なので、このサイトでは欲張って両方の話題を取り上げようと考えていますが、それでも不確実性がないゲームはやや専門外でもあり、話題は少なくなるでしょう。

これ以降では、一般に「賭け」や「ギャンブル」と言われる「不確実性のある賭け」についての分類を考えます。

不確実性のある賭けの分類(1):勝つチャンスと利得への関与

Ziemba, Brumell and Schwartz (1986) はギャンブルを2つの観点から計4種類に分類しています。1つ目の観点は、「勝つチャンスが完全に運によるか、技術を要するか」のどちらであるか。もう1つの観点は「勝利による利得が、完全に運に依存するもしくは定まっている(技術によって増減しない)か、技術によって利得が増加するか」です。表にすると以下のようになります。


ギャンブルの分類( Ziemba, Brumell and Schwartz (1986) )

宝くじもナンバーズも番号はランダムに出るので、勝つチャンスは完全に運に依存していて技術を要しません。ただし、一般の宝くじの賞金は技術を持ってしても増加しませんが(そもそも、ほとんどくじを選べない)、ナンバーズやロトは、自分が選ぶ番号によって賞金を変化させる可能性があります。したがって勝利による利得の分類は、宝くじとロト・ナンバーズでは異なると言えるでしょう。ブラックジャック、ポーカー、バカラ、競馬などは技術によって勝つチャンスも利得も増加する可能性があります。右下のセルに分類されるこれらのギャンブルが、私達が一般にギャンブルと呼ぶもののほとんどを包括しています。

利得も勝つチャンスもどちらも完全に運によるものであれば、それを分析する動機は少なくなるでしょう。本サイトで扱うのは、勝つチャンスか利得の少なくとも1つが技術により増加すると考えうるものでしょう。

不確実性がある賭けの分類(2):賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)

wikipediaの「賭博」の項目では、大谷實『新版刑法講義各論[追補版]』(成文堂、2002年)533頁を参照して「賭ける対象となる勝負事の結果に当事者として関与できるかどうか」という視点から賭博を賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)に分類しています。

賭博とは、賭事(とじ)と博戯(ばくぎ)の二つを合わせた言葉である。賭事と博戯の違いは、賭ける側の人間が、賭ける対象となる勝負事の結果に当事者として関与できるか否かである。

賭事(とじ) – 勝負事の結果に参加者が関与できないもの
博戯 – 勝負事の結果に参加者が関与できるもの

公営競技、「野球賭博」「富くじ(宝くじ)」「ルーレット」、「バカラ」などは賭事であり、「賭け麻雀」「賭けゴルフ」「賭けポーカー」などは博戯である。「クラップス」のように、一つのゲームで賭事と博戯が混在[3]する場合もある。

wikipedia「賭博」の項から

この「勝負事の結果に参加者が関与できる」ということと、(1)の「勝つチャンスや運が技術により増加する」ということは、かなり近い概念ですが、違いはあります。競馬を考えてみましょう。(1)のZeimba達の分類では、競馬はどの馬に賭けるかによって、賭けた者の当たる確率や利得を変化させることができます。(2)の分類では、競馬の結果には参加者は関与できないので、博戯になるのでしょう。

不確実性がある賭けの分類 (3):参加者の人数

他の文献には見当たりませんが、参加者が多数か少数かは、賭けを分類するのに重要な要素であると私は考えています。

カジノなどで扱われる賭け、ブラックジャック、ルーレット、バカラなどは賭けの参加者が比較的少数です。このような問題は、確率や統計などの数学、心理学や意思決定論などがそれを取り扱う学問分野になるでしょう。

これに対し競馬などは、賭けの参加者が多数です。これを取り扱うには経済学で考える「市場」の概念が必要であると考えています。経済学・ファイナンス・金融工学などがこれを取り扱う学問分野になるのではないでしょうか。もちろん、参加者が少数である賭けを取り扱う確率や統計などの数学、心理学も必要となるため、もっとも複雑でエキサイティングな分野ではないでしょうか。本サイトでも、この分野を取り扱うことが多くなると思います。

不確実性がある賭けの分類(4):主催者・胴元は賭けをするか?

「賭け」にはたいてい主催者がいて、それを「胴元」などと呼んだりします。カジノの主催者はオーナーで、日本の中央競馬ではJRAです(もっともJRAは執行機関であり、本当の主催者は国であるともいえますが)。宝くじの場合には、みずほ銀行を主催者と考えるよりは、自治体などを主催者と考えたほうが良いでしょう。多くの場合、法律で公認のギャンブルは公営で、ギャンブルの主催者は公的機関であったりします。

主催者の収入が運に依存するかどうか、言い換えると主催者自身がギャンブルをするかどうかは賭けを分類する重要な要因です。多くのギャンブルの主催者が公的機関であることを考えると、公的な収入が運に左右されるかどうかに対応するので、これは経済学的にも政策的にも重要な問題です。

カジノにおける多くのギャンブルでは、主催者の収入も運に依存します。例としてルーレットを考えてみましょう。アメリカンルーレットの場合、数字の数は0と00を含めて38個で、1つの数字に賭けて当たった場合の払い戻し倍率は36倍です。仮に全員が(「赤」[黒」とか「奇数」「偶数」のような賭け方ではなく)1つの数字に賭けるような賭け方をすれば、主催者の期待収入は
賭けられた金額×(38分の2)
となります。しかし、これはあくまでも期待値で、確実な収入ではありません。たまたま、参加者がルーレットの数字を次々に当てた場合は、主催者収入はマイナスになります。主催者の収入が、参加者と同様にルーレットの目に左右される点では、主催者も賭けをしていると考えられるでしょう。

カジノに対して、宝くじや日本の競馬はパリマチュアル(parimutuel)方式と呼ばれ、賭けられたお金から一定の額を控除した後、勝者にお金を配分するという方法をとっています。このような方式では主催者の収入は賭けられた金額で確定し、運には左右されません。例として、日本の競馬を考えてみましょう。日本の中央競馬では、賭けられたお金の(約)25%を主催者が控除した後、その金額を勝者に配分することになっています。主催者の収入は
                 賭けられた金額×25%
となります。ルーレットと異なる点は、これは確実な収入であり、本命が来ようが、穴馬が来ようが、どの馬が1着になったかには関係なく、主催者の収入は賭けられたお金にのみ依存します。ルーレットでは、主催者の収入が出た目に依存するのとは対照的に、この場合は、主催者は賭けはしていません。

ルーレットの38分の2も、日本の競馬の25%も、主催者の控除率と呼ばれるものですが、その内容は、このように少し異なります。

主催者が賭けをする方式でも、回数が多くなれば「大数の法則」に従って、収入は期待金額に近づくことが予想されます。したがって、この場合は賭けの回数が多くなることが主催者の収入を安定させるためには大切です。ルーレットにおいて、賭けられるお金の総額が1億円のときに、1億円が1回かけられるのと、100円が1万回賭けられるのでは、後者のほうが主催者には好ましく(リスクが少なく)なります。日本の競馬のようにパリマチュアルシステムでは、この2つに差はありません。

なお、日本の競馬と異なり、イギリスの競馬ではブックメーカー方式と呼ばれる主催者自身が賭けをする形もとられています。

賭け・ギャンブル・ゲームの定義(本サイトにおける)

賭け・ギャンブル・ゲームの定義

賭けとギャンブルの定義?

このサブサイトは「賭けの科学」というタイトルです。そこでまず、ここで取り扱う「賭けやギャンブル」の定義について、考えなければなりません。これはなかなか難しい問題です。

一般的にギャンブルとは、「運」や「不確実性」による結果に左右され利益か損失を得る行為と考えられます。この定義では2つの問題点が生じます。1つは「賭け将棋」はギャンブルか?という問題です。昭和の初めなどでは将棋を勝負事として勝ち負けで金銭をやり取りする「賭け将棋」が行われていたと聞きます(参考:小池重明)。将棋は不確実性を持たない完全情報ゲームなので、賭け将棋まで含めると上記の定義は矛盾します。

もう1つは「投資はギャンブルか」という問題です。株式や不動産などへの投資、もっと広げて考えると会社の事業投資、研究開発投資という行為も運や不確実性を伴います。では、これはギャンブルなのかという問題です。これに対しての典型的な答は、賭けた者の期待利益が正ならば投資であり、負ならばギャンブルだ、だから株や事業への投資はギャンブルではないとするものです。一方で、個人や企業の投資も十分ギャンブルだ、とする答もあり、これは人によって見解が分かれる部分だと思います。株や不動産や事業に対する投資も期待利益が正かどうかは分かりません。私が思うには、リスクを好まず株式や不動産への投資を避けたい人はそれを「ギャンブル」と呼び、投資を好むものは「それは投資であってギャンブルではない」と呼ぶ傾向にあるように思えます。

このサイトでは主に不確実性を伴う行為について扱いますが、もう1つ将棋やオセロなどの不確実性を伴わないようなゲームについても、少しだけ考えていきたいと思います。そのような考えから、このサイトで扱う対象をうまく定義できないか考えてきました。そこで、その観点からの別の定義を考えたいと思います。それはその行為がゼロサムゲームかどうか、という観点です。一般にギャンブルと呼ばれる行為は、誰かが勝ち、誰かが負けて、そこでやり取りされる金額の合計はゼロです(ここでは参加者だけではなく、主催者・胴元の利益も含めます)。このやり取りされる金額はゼロ(生産を伴わない)という定義だと、賭け将棋は含まれ、株式・不動産などへの投資行為は含まれません。そして、この定義こそが、本サイトで扱う問題を定義することに適しているのでした。そこで、一般的な定義とは異なりますが、

このサイトにおける「賭け」とは、金銭を利得とするゼロサムゲームである

としておきます。

ナッシュ均衡を理解する演習

利得行列や数式を用いずにナッシュ均衡を理解する

ゲーム理論の解はナッシュ均衡こちらで説明)です。「ゲーム理論が少し分かった!」と思えるためには、ナッシュ均衡が理解できていなければなりません。しかし、よくあるゲーム理論の教え方では、ナッシュ均衡は利得行列を使って説明され、プレイヤーの利得が数式や数値や表で与えられて、それを機械的に計算しナッシュ均衡を求める人が多い気がしています。

利得行列からナッシュ均衡を求める方法はこちら(ナッシュ均衡の求め方:2人ゲームの利得行列の場合)。

しかし、それで正しくナッシュ均衡の概念が理解できたと考えられるでしょうか?(いやない、反語)。ここでは、数式や表を用いない例題でナッシュ均衡を理解していきましょう。

まずナッシュ均衡の定義をおさらいしましょう。ナッシュ均衡とは、

どのプレイヤーも、他のプレイヤーがそのナッシュ均衡の戦略を選んでいるならば、自分はそのナッシュ均衡の戦略を選ぶことが利得がもっとも高くなる。

です。つまり、

どのプレイヤーも、他のプレイヤーがそのナッシュ均衡の戦略を選んでいるならば、自分はそのナッシュ均衡の戦略以外を選ぶと、利得が同じか低くなる(高くなることはない)

ということです。この「同じか低くなる」と言うのは1つのポイントです。相手の戦略に対し、利得が最大になる戦略が1つならば「低くなる」で良いのですが、最大となる戦略が<同点>で2つ以上あるときは、「低くなるか同じ」 です。

なお「利得が高くなる」とは、プレイヤーにとって「良い」とか「好ましい」ということです。

2人ゲームの例

2人ゲームで練習してみましょう。なお以下では確率で戦略を選ぶ「混合戦略」は考えません。

練習1:アリスと文太は、禅寺かショッピングモールへ行く。アリスは禅が好きで、文太の行動に関わらず禅寺のほうがショッピングモールより良いと考えている。その中でどちらに行っても、文太に会えないよりは会える方が良いと考えている。一方、文太はどちらに行くかより、アリスに会えることが大切である。そして、アリスに会えたなら、ショッピングモールのほうが禅寺よりもいい。アリスに会えないときも同じである。以下から、ナッシュ均衡を選べ。複数あるときはすべて選び、ないときは「なし」と答えよ。
(A)2人とも禅寺へ行く
(B)アリスは禅寺へ、文太はショッピングモールへ行く
(C)アリスはショピングモールへ、文太は禅寺へ行く
(D)2人ともショッピングモールへ行く

正解は(A)。(A)では、どちらのプレイヤーも、自分だけが行動を変えると利得が小さくなるのでナッシュ均衡です。(B)では文太は禅寺へ行ったほうが利得が高くなりますし、(C)と(D)では、アリスは禅寺へ行ったほうが利得が高くなります。したがってナッシュ均衡ではありません。

なお(C)で「文太はショッピングモールに行ったほうが利得が高くなるのでナッシュ均衡ではない」としても良いです。「ナッシュ均衡ではない」ことを示すには、選択を変えると利得が高くなるプレイヤーが1人でもいることを示せば良いので、アリスと文太の両方について言わなくても、どちらか1人で良いわけです。なお上記の場合、アリスにとって禅寺に行くことは支配戦略です。支配戦略がある場合は、ナッシュ均衡では必ずその戦略が選ばれます。

次はどうでしょうか?

練習2:アリスと文太は、禅寺かショッピングモールへ行く。アリスも文太も、お互いのことが大好きで、どちらに行くかよりも、相手に会えるほうが大切である。ただし、アリスは、会えたときも会えないときも、禅寺のほうがショピングモールよりも良く、文太はショッピングモールのほうが禅寺よりも良い。以下から、ナッシュ均衡を選べ。複数あるときはすべて選び、ないときは「なし」と答えよ。
(A)2人とも禅寺へ行く
(B)アリスは禅寺へ、文太はショッピングモールへ行く
(C)アリスはショピングモールへ、文太は禅寺へ行く
(D)2人ともショッピングモールへ行く

正解は(A)か(D)。2人が会えている(A)と(D)では、どちらか一方だけが行動を変えると、そのプレイヤーの利得が小さくなるのでナッシュ均衡です。(B)と(C)で、どちらか一方だけが行動を変えると、そのプレイヤーの利得が高くなるのでナッシュ均衡ではありません

さてさて、次はどうでしょうか?

練習3:アリスと文太は、禅寺かショッピングモールへ行く。アリスは文太が大好きで、どこに行くかよりも文太に会えることが大切。そして、その中で会えても会えなくても、禅寺のほうがショピングモールよりも良いと考えている。文太は残念ながらアリスが嫌いで、どこに行くかよりもアリスに会わないほうが会えるより絶対良いと考えている。その中で、会えたときも会えないときも、禅寺よりショピングモールのほうが良い。以下から、ナッシュ均衡を選べ。複数あるときはすべて選び、ないときは「なし」と答えよ。
(A)2人とも禅寺へ行く
(B)アリスは禅寺へ、文太はショッピングモールへ行く
(C)アリスはショピングモールへ、文太は禅寺へ行く
(D)2人ともショッピングモールへ行く

この場合はナッシュ均衡は「なし」です。2人が会えている(A)と(D)では、文太が行動を変えると会えなくなって利得が高くなり、2人が会えていない(B)と(C)では、アリスが行動を変えると高くなるので、どれもナッシュ均衡ではありません。(なおこのような場合も確率で戦略を選ぶ混合戦略を用いると、ナッシュ均衡がありますが、その場合は利得を数値で表さなければ確率が計算できません)。

3人以上のゲームの例

ナッシュ均衡についての理解が深まってきたでしょうか?それでは3人以上の例を考えて、練習してみましょう。まず簡単な「多数決」を考えてみましょう。

練習4:(奇数人での多数決) 5人で「海」か「山」を選ぶ。 多い人数が選んだ方を選ぶと勝ち、少ない人数が選んだ言葉を選ぶと負け。当然、勝つほうが負けるより良いとします。以下から、ナッシュ均衡を選べ。複数あるときはすべて選び、ないときは「なし」を選べ。
(A) なし
(B) 全員が「海」を選ぶ
(C) 4人が「海」、1人が「山」を選ぶ
(D) 3人が「海」、2人が「山」を選ぶ
(E) 2人が「海」、3人が「山」を選ぶ
(F) 1人が「海」、4人が「山」を選ぶ
(G) 全員が「山」を選ぶ

正解は(B)と(G)です。 全員が同じ言葉を選ぶ(B)と(G)では、どの人も他者の選択はそのままで自分の選択を変えると利得が低くなるので、ナッシュ均衡です。それ以外では、少数派になっているプレイヤーは、他者の選択がそのままのときに自分の選択だけを変えると多数派となり、利得が高くなるので、ナッシュ均衡ではありません。

では、次はどうでしょう。ライアーゲームの最初に出てくる「少数決」です。少数派になったほうが勝ちです。

練習5:(奇数人の少数決) 5人で「海」か「山」を選ぶ。少ない人数が選んだ方を選ぶと勝ちで、 多い人数が選んだ方を選ぶと負け。以下から、ナッシュ均衡を選べ。複数あるときはすべて選び、ないときは「なし」を選べ。
(A) なし
(B) 全員が「海」を選ぶ
(C) 4人が「海」、1人が「山」を選ぶ
(D) 3人が「海」、2人が「山」を選ぶ
(E) 2人が「海」、3人が「山」を選ぶ
(F) 1人が「海」、4人が「山」を選ぶ
(G) 全員が「山」を選ぶ

正解は(D)と(E)です。それ以外では、多数派になっている人は、自分だけの選択を変えると少数派となり利得が高くなりますので、ナッシュ均衡ではありません。

これに対し(D)と(E)では、すべてのプレイヤーが自分だけ選択を変えても利得が高くならない(同じか低くなる)のでナッシュ均衡です。なぜかと言うと、少数派となったプレイヤーは自分の選択を変えると多数派になり利得が下がりますし、多数派のプレイヤーは自分だけが選択を変えても、やはり多数派になってしまい(多数派が変わってしまいます)利得は同じになります。

もうお腹いっぱいでしょうかね?それでは、最後の問題です。

練習6:(7人じゃんけん)7人でじゃんけんをします。もちろんすべてのプレイヤーは、勝ち、あいこ、負けの順に良い(利得が高い)とします。
(A) なし
(B) 7人ともにグーを出す
(C) 3人がグー、4人がパーを出す
(D) 1人がグー、2人がパー、4人がチョキを出す
(E) 2人がグー、2人がパー、3人がチョキを出す
(F) 3人がグー、2人がパー、2人がチョキを出す

答えは(E)と(F)です!(B)「7人ともにグーを出す」や (C)「3人がグー、4人がパーを出す」では、グーの人がパーに変えることで負けから勝ちに転じて利得が高くなります。また(D)「1人がグー、2人がパー、4人がチョキ」では、グーの人がチョキに手を変えると、アイコから勝ちに転じて利得が高くなります。したがってナッシュ均衡ではありません。しかし(E)と(F)の場合は、どの人も自分だけが手を変えても、あいこからあいこになるだけで利得は高くなりません。したがって、(E)と(F)はナッシュ均衡です。

ナッシュ均衡(ざっくりした説明)

ここではまずナッシュ均衡について、ざっくり説明します。

  • ナッシュ均衡の求め方(2人ゲームの利得行列)はこちらのページで。
  • クールノー均衡はこっち。
  • 定義などは、また後ほど。

ナッシュ均衡とは

ゲーム理論におけるナッシュ均衡とは、ざっくりいうと

どのプレイヤーも、自分だけでは、それ以上利得が大きくできない状態

です。「状態」って言い方は不正確過ぎるか。もう少し正確に言うと、ナッシュ均衡とは

どのプレイヤーも、他のプレイヤーがそのナッシュ均衡の戦略を選んでいるもとでは、その戦略が一番利得が高くなる(他の戦略では利得が同じか低くなる)

ような戦略の組です。あんまり変わんないか。

ナッシュ均衡の例

例を挙げましょう(これは支配戦略を説明するときに用いた例の「客数」を変えたものです)。

2つのコンビニ、セレブ(セレブイレブン)とファミモ(ファミリーモール)が、まだコンビニがないA駅とB駅のどちらか一方に出店しようと考えている。コンビニを1日に利用する客はA駅が600人、B駅が750人である。セレブとファミモがもし違う駅を選べば、利用客を独占できる。しかし同じ駅に出店すると、ファミモが人気で、ファミモはセレブの2倍の客数を獲得できる。すなわち両方がA駅に出店すると、セレブ200人、ファミモ400人。B駅に出店すると、セレブ250人、ファミモ500人である。ここで客数を利得と考える。セレブとファミモはどちらの駅に出店するだろうか?

このゲームを利得行列で書くと下のようになります

ナッシュ均衡の例

例えば「セレブとファミモが共にA駅を選ぶこと」はナッシュ均衡ではありません。なぜならセレブは、ファミモがA駅を選んでいるなら、B駅に変えたほうが利得が高くなるからです。このように、他のプレイヤーの戦略が変わらないもとで、あるプレイヤーが選択を変えると利得が高くなるならば、その戦略の組はナッシュ均衡ではありません。

ナッシュ均衡ではない

これに対し、例えば「セレブがA駅、ファミモがB駅を選ぶこと」はナッシュ均衡です。なぜならセレブもファミモも、相手がそれを選んでいる限り、自分の利得をもっとも高くしているからです。つまりナッシュ均衡では、

どのプレイヤーも(相手がその戦略を選んでいるならば)、それ以上利得を高くできない (他の戦略では利得が同じか低くなる)

と言うことになります。

ナッシュ均衡である

ナッシュ均衡は2つ以上あるときもある

しかしこの例では「セレブがA駅、ファミモがB駅を選ぶこと」だけではなく、「セレブがB駅、ファミモがA駅を選ぶこと」 もナッシュ均衡になることが分かります。つまりナッシュ均衡は1つとは限らず、2つ以上ある場合もあります。このときどちらをゲーム理論の解とすべきかは難しい問題で、これは「均衡選択」と呼ばれる理論と「均衡精緻化」と呼ばれる理論で考えられています(2つの違いを説明するのはちょっと難しい)これはまた別の機会に。

ナッシュ均衡が複数あるゲームの代表例は、調整ゲームチキンゲームです。調整ゲームの記事では、どういうときにナッシュ均衡が実現しやすいかについても述べています。

ナッシュ均衡がなぜ解なのか

ナッシュ均衡以外が結果として予測されたとします。このとき、もしすべてのプレイヤーがその予測を知ったならば、少なくとも1人はその予測から違う行動を取ることで利得を高くすることができるはずです。そのプレイヤーは、ナッシュ均衡と違う行動を取るでしょうから、もはやその予測は当たりません。このことから、ゲームの結果の予測をプレイヤーが知っても結果が成り立つためには、その予測はナッシュ均衡でなければならないはずです。(「じゃんけんの必勝法と行動ファイナンス・行動経済学」も参考にしてください)

注意点と補足

  • すべてのプレイヤーが支配戦略を選んでいるときはナッシュ均衡になります。これはナッシュ均衡の特殊ケースと考えられます。したがって囚人のジレンマの結果もナッシュ均衡であると言えます。
  • 上記の点から考えると、じゃんけんにはナッシュ均衡がありませんが、確率を用いる「混合戦略」を考えるとナッシュ均衡が存在します。このような混合戦略まで考えると、すべてのn人有限ゲームにナッシュ均衡が存在します。この素晴らしい定理を誰が証明したかは、よく考えれば分かるはずである。これによって、その人はノーベル経済学賞を受賞しています。私ではありません。
  • ナッシュ均衡が分かったような気がしない?もう少し理解を深めたい?ではナッシュ均衡のおけいこ(1)で練習しましょう
  • 2人ゲームの利得行列でのナッシュ均衡の求め方はこちら
  • 混合戦略のナッシュ均衡の求め方
  • クールノー均衡はこっち

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