クールノー競争とベルトラン競争入門(3):クールノー競争の価格・生産量と社会的総余剰

独占市場における価格と生産量の決定を理解したとして、ここでは2社のクールノー競争の価格と生産量の決定、および社会的総余剰の計算について説明します。

クールノー競争の価格と生産量の決定:モデル

ここでは同質財を販売している2社の生産量競争を考えます。一般にクールノー競争と呼ばれるのは、このモデルです(不完全競争市場の分類)。

  • 企業AとBが同じ製品(同質財)を販売するとします。AとBの生産量をそれぞれ\(x_A,x_B\)とし、AとBは\(x_A,x_B\)を決定するとしましょう。
  • 市場全体の生産量を\(x=x_A+x_B\)に対して、その価格\(p\)は$$p=a-bx$$で与えられるとします。
  • ここで製品を1単位の費用(限界費用)はAもBも\(c\)で同じであり、生産量にかかわらず一定とします。簡単にするため固定費は考えません。
  • AとBは利益を最大にすると考えます。AとBは、生産量\(x_A、x_B\)をいくらにするでしょうか。

問題の解法

問題は以下のようにして解くことができます。

  • 企業Aの利益を\(\pi_A\)とおく。ここで(利益)=(収入)-(費用)であり、収入は(価格)\(\times\)(生産量)、費用は(限界費用)\(\times\)(生産量)となります。したがって$$\pi_A=px_A-cx_A$$となります。
  • この\(\pi_A\)を最大にする\(x_A\)を考えます。そこで\(p=a-bx\)を代入し、さらに\(x=x_A+x_B\)に注意すると\[ \begin{align} \pi_A &= px_A-cx_A \\ &=(a-bx)x_A-cx_A \\&=
    \{a-b(x_A+x_B)\}x_A-cx_A\\&=-bx_A^2-bx_Ax_B+(a-c)x_A \tag{1} \end{align}\]となります。
  • この式(1)を最大にする\(x_A\)を求めるには、ざっくり言うと\(x_A\)で微分
    (正確には偏微分)して0になるところを求めれば良い。(1)を\(x_A\)で微分すると、\(-2bx_A-bx_B+(a-c)\)となります。したがって\[-2bx_A-bx_B+(a-c)=0\]を解けば良く、これより\[x_A=-\frac{1}{2}x_B+\frac{a-c}{2b} \tag{2}\]となります。
  • 式(2)は、企業Aの最適反応関数と呼ばれます。式(2)は\(x_B\)が与えられたときに企業Aの利益を最大にする企業Aの生産量を表しています。したがって、企業Bの生産量が決まれば、企業Aとの最適な生産量(答)が決まるのですが、企業Bの生産量がいくらになるか分かりません。そこで企業Bが利益を最大にする生産量を同様に求めてみます。
  • 企業Bの利益を\(\pi_B\)とおきます。$$\pi_B=px_B-cx_B$$であり、企業Aの場合と同様に\(p=a-bx\)を代入して計算し、$$\pi_B=-bx_B^2-bx_Ax_B+(a-c)x_B$$を得ます。さらに\(x_B\)で微分して0になるところを求めると、\[x_B=-\frac{1}{2}x_A+\frac{a-c}{2b} \tag{3}\]となります。
  • この式(3)は、企業Bの最適反応関数と呼ばれます。企業Aと同様に\(x_A\)が与えられたときに、企業Bの利益を最大にする企業Bの生産量を表しています。
  • ここで、企業Aは企業Bの生産量が分からなければ、利益を最大にする生産量が分からず、企業Bは企業Aの生産量が分からなければ、利益を最大にする生産量が分かりません。ここでゲーム理論のナッシュ均衡の概念により解を求めるわけです。ナッシュ均衡は、お互いが最適反応戦略を選び合うような戦略の組み合わせで、ここでは式(2)と式(3)を同時に満たす\(x_A\)、\(x_B\)となります。
  • 式(2)と式(3)を同時に満たす\(x_A\)、\(x_B\)は、これらを連立方程式で解くことによって求められます。式(3)の\(x_B\)を式(2)に代入して計算すると\(x_A=-\frac{1}{4}x_A+\frac{a-c}{4b}\)となり、これから\(x_A=\frac{a-c}{3b}\)を得ます。またこれを式(2)に代入して、\(x_B=\frac{a-c}{3b}\)を得ます。
    このときの価格は\[p=a-bx=a-b(x_A+x_B)=\frac{a+2c}{3} \]となります。
  • このとき企業Aの利益は\[ \begin{align} \pi_A &= px_A-cx_A =(p-c)x_A\\ &=\left(\frac{a+2c}{3}-c\right)\left(\frac{a-c}{3b}\right)=\frac{(a-c)^2}{9b} \end{align}\] となります。同様に企業Bの利益も同じになります。

まとめますと、クールノー競争における企業Aと企業Bの生産量は\(x_A=x_B=\frac{a-c}{3b}\)となります。これをクールノー均衡と呼びます。クールノー均衡における価格は\(p=\frac{a+2c}{3}\)、各企業の利益は\(\pi_A=\pi_B=\frac{(a-c)^2}{9b}\)となります。

消費者余剰、社会的総余剰

独占市場における、消費者余剰、生産者余剰、社会的総余剰について示します。

市場全体の取引量が\(x=x_A+x_B=\frac{2(a-c)}{3b}\)であることに注意すると、上記で求めたクールノー競争の価格と生産量と企業の限界費用は、以下の図で示すことができます。

クールノー競争における生産量・価格・社会的総余剰

消費者余剰は、図の青色で示された部分の三角形です。

三角形の底辺の長さは\(\frac{2(a-c)}{3b}\)、高さは\[ a-\frac{a+2c}{3}=\frac{2(a-c)}{3} \]ですから、三角形の面積は\[ \frac{1}{2} \times\frac{2(a-c)}{3b} \times \frac{2(a-c)}{3}=\frac{2(a-c)^2}{9b} \]となります。

企業の利益は、図の緑色の部分の長方形の面積です。

長方形の高さ(価格-限界費用)は、\(\frac{a+2c}{3}-c=\frac{a-c}{3}\)、ヨコの長さは\(\frac{2(a-c)}{3b}\)ですので、長方形の面積は\[\frac{a-c}{3}\times\frac{2(a-c)}{3b}=\frac{2(a-c)^2}{9b}\]となります。先に求めた企業の利益を合計した値(\(\pi_A+\pi_B\))と一致することがわかりますね。これを生産者余剰とも呼びます。

社会的総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の総和です。したがって社会的総余剰は
\[\frac{2(a-c)^2}{9b}+\frac{2(a-c)^2}{9b}=\frac{4(a-c)^2}{9b}\]です。

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