ゲーム理論の基礎知識(6回連載)

株式会社イプロス様からの依頼で、ゲーム理論の基礎知識という連載を6回に渡って行うことになりました。

ゲーム理論とは:ゲーム理論の基礎知識1

6回の連載で、ゲーム理論とは?、戦略形ゲームと戦略の支配、ナッシュ均衡、混合戦略、情報の非対称性とシグナリング、などを紹介します。コンパクトに、うまくまとめることができたと思います。

八王子東高校で講義!

昨年のご縁もあり、今年も八王子東高校で講義させて頂きました(2021年7月)

(2020年11月)朝日新聞社の「プロフェッサービジット」という企画で、八王子東高校に行き、ゲーム理論の講義を行いました。以下は八王子東高校の紹介ページです。

※本校での講演が朝日新聞(都内版)に掲載されます

高校生に講義をするのは初めてです!実際にゲームをシながら、囚人のジレンマや調整ゲームなどについて学びました。皆さん、とても熱心に聞いてくれました。

 

静岡大学集中講義「社会システム工学」 講義情報

2021年9月下旬に非常勤で集中講義を予定している静岡大学工学部数理システム工学科の講義「社会システム工学」の講義情報です。ゲーム理論を講義する予定です。

以下の講義資料は,変更されることがあります。

オンデマンド学習について

完全ではありませんが,講義内容に沿った動画をオンデマンドで見ることができます.以下を参照してください.
http://nabenavi.net/gametheory/

これは文系(東京都立大学経済経営学部)向けのもので,本講義にある「数式の表記について」という部分に対応している動画はありませんが,宿題や演習には十分対応できます.以下のようなときに利用してください.

  • 通信環境が良くない場合
  • 講義時間の都合がつかない
  • 予習と復習

以下には,講義内容とURLの対応表があります。

youtube対応表

新しいゲーム理論のテキストのページ

裳華房から2021年秋に出版予定のゲーム理論のテキストのページです。
タイトルはまだ未定(2021年8月時点)

演習問題の解説

各章末の演習問題で、難しいと思われる問題や、詳しい説明が必要と考えられる問題についての解説(PDF)です。

解説PDF(未完成)

本の特長

  • 初めて学ぶ者も数式でゲーム理論を理解できるように、分かりやすい言葉で、省略することなく丁寧に、一歩一歩、独りでも学ぶことができることを目指した教科書である。
  • 数式による定義は必ず言葉で言い換えて、例を使って説明し、必要なものには図解を加えるように心がけた。
  • 集合の用語や引数や述語論理の使い方など、数学に慣れた者には当たり前であっても、初学者が引っかかってしまう数学の概念には数学表現のミニノートとして解説を加えた。
  • 本書で何を学ぶのかについては最初のプロローグに示して、読者がどこまで学習したかが分かる地図を作り、各章のはじめに地図と現在の位置を示した。本文の中で重要な部分は太字にし、checkマークのアイコンを付けた。
  • 章のはじめにはキーワードを示し、終わりにはまとめを置いた。
  • 章末の演習問題を充実させて、解答をつけるのはもちろんのこと、難しい問題には(ネット上に)解説も示した(上記)。
  • ゲーム理論を学ぶ本は、もはや専門書ではなく、教科書・テキストであるとの考え方に立って、さまざまな工夫をした。

オークション理論の本

オークション理論を勉強するために参考となる本をいくつか紹介しておきます.

  • 「マーケットデザイン」, ギオーム・ハーリンジャー (著), 栗野盛光 (翻訳),中央経済社,2020.
    • マーケットデザインの「テキストブック」として書かれた本.ゲーム理論やミクロ経済学の知識がない初心者であっても,マーケットデザインについての理論と現実の両方について学んでいける本.
  • Auction Theory (Second Edition), Vijay Krishna, Academic Press, 2009.
    • オークション理論の最も優れたテキスト.単一財の独立価値モデル,価値依存モデル,メカニズムデザインと最適オークション,非対称均衡の分析,複数財のオークションと必要な理論が網羅されていて,しかも確率理論の必要となる部分(特に順序統計量と確率順序)がすべて付録に書かれている.数学記号の使い方も厳密で且つ簡潔で,他分野でもこれほどよくできたテキストは珍しい.真面目に勉強したいならばこれでやりましょう.なおfirst editionは2002年に書かれており,まだ売っていてKindle版もある.あくまでも厳密な理論を学ぼうと言う人向けです.
  • 「マーケットデザイン入門」,坂井豊貴,ミネルヴァ書房,2010.
    • Krishnaの本は英語だし重厚なので,まず「日本語で簡潔にオークション理論」を学びたいというなら,これが良い.単一財,複数財のオークションのエッセンスが書かれている.著者の坂井豊貴氏はメカニズムデザインの研究者として知られ,本書もマーケットデザインの入門書として前半をオークション理論に,後半をマッチング理論に割いている.なお,あくまでも厳密な理論を学ぼうと言う人向けです.
  • 「オークションの人間行動学 最新理論からネットオークション必勝法まで」,ケン・スティグリッツ (著), 川越敏司・佐々木俊一郎・小川一仁 (翻訳),日経BP社,2008.
    • “Snipers, Shills, & Sharks: eBay and Human Behavior,” Ken Steiglitz, Princeton University Press, 2007の翻訳.翻訳者の中心である川越先生は実験経済学の研究者として知られ,オークション理論にも詳しい.本書も,オークション理論だけではなく,実験経済学や行動経済学の知見や,ネットオークションも盛り込まれており,付録にはオークション理論の簡潔なサーベイがあるので,これを勉強すると良い.理論は難しいな~と思う人も,何とか読めます.
  • 「オークション理論の基礎」,横尾真,東京電機大学出版局,2006.
    • 著者の横尾先生は計算機科学でのオークションとメカニズムデザインの研究者として有名.この本は,計算機科学で特に重要な複数財オークションや架空名義入札という概念を中心にして,オークション理論の考え方やゲーム理論の考え方を初歩から分かりやすく説いている本です.誰もが読むことができます.オークション理論は,不完備情報ゲームという「確率」や「均衡」の概念を用いていますが,横尾氏を中心に計算機科学分野で使われるVCGメカニズムというオークションは耐戦略性という性質を重要視していて,この性質を中心として理論を展開する場合は,確率計算をあまり必要としません.このような分野からオークションを知りたい者には,最良の本であると言えます.
  • An Introduction to Auction Theory, F. M. Menezes, P. K. Monteiro, Oxford University Press, 2008.
    • 洋書を含めてもオークション理論をきちんと説明している本は少ないが,この本はそのうちの1つである.「Krishnaを1冊読みきるのは難しいので,少ない分量で...」というならこの本はどうでしょう.変わった数値例があって面白い.でも,あくまでも理論を学ぼうと言う人向けです.
  • 「メカニズムデザイン」,坂井豊貴・藤中裕二・若山琢磨,ミネルヴァ書房,2008.
    • メカニズムデザインで知られる3人の研究者によって書かれた本で,4章にオークション理論が載っています.本書はメカニズムデザインの一般的な理論を展開し,その適用例としてオークションを捉えたもので,その点では類を見ない本です.メカニズムデザインにも興味があるという人は,先に挙げたマーケットデザイン入門とともに読むと良いでしょう.
  • “Putting Auction Theory to Work,” Paul Milgrom, Cambridge University Press, 2004.
    • オークション理論の第1人者Paul Milgromによる本なので,是非手にしたい.単一財・複数財,独立価値・依存価値など,様々な文脈におけるオークション理論の展開が上記の本とは異なる構成で書かれている.また「積分包絡線定理」という彼のもう1つの研究成果から,オークション理論を捉えようとした意欲作でもあり,彼が携わったオークションの実際の設計に関する理論の適用も書かれている.ただ,数学の記法がやや煩雑でしかも曖昧さがあり,行間が激しく飛んでいる部分もあるので,それを埋めて厳密に理解しようとすると,なかなか大変である.なお翻訳書「オークション 理論とデザイン」,Paul Milgrom (原著), 川又邦雄・奥野正寛(監訳), 計盛英一郎, 馬場弓子(翻訳) があるのもうれしい.

勝者の呪い,独立私的価値と共通価値

単一財オークション理論では,商品に対して入札者がどのような価値を持っているかによってモデル化が異なります.ここではそれと勝者の呪いについて説明します.

独立価値モデルと共通価値モデル

独立私的価値(Independent Private Value, IPV)モデルは,個人によって商品の評価額(=価値)が異なるモデル,他者と自分の評価額が独立しているモデルです.スターやアイドルの所持品や遺品,絵画や骨董品のように「他人にとっては値打ちがなくても,自分にとっては値打ちがある」と言った商品に対して適用されます.この場合,入札者の評価額は入札者自身が分かっており,他者の評価額や情報に影響を受けません.

これに対し,すべての人にとって商品の本来の評価額が同じと考えるモデルを共通価値(Common Value, CV)モデルと呼びます. ただし入札者はその評価額を正確に見積もることができず,人によって「誤差」が生じます.これは石油や鉱山の採掘権,転売を目的とした商品の入札などに当てはまるモデルです.石油の採掘権(=油田)の評価額は,そこから採掘される油田の埋蔵量☓原油価格によって一意に決まります(採掘にかかるコストを考慮するときもある).しかし,埋蔵量がどのくらいあるのか,原油価格がどのくらいになるかの予想が人によってずれる(誤差を持つ)ため,入札者がその油田に対して持つ評価額がずれてくるわけです.また転売目的に商品を落札するときは,転売時の商品価格が評価額となるはずです.最終的にこれは一意に決まりますが,入札時の予想は人によって異なるため評価額がずれてくるわけです.

一般的には,個人の評価額は不確実で他者の評価額い依存・相関すると考える相互価値依存モデル(Interdependent Value)と呼ばれるモデルもあり,共通価値モデルはこの特殊な場合として考えることができます.

勝者の呪い

共通価値モデルにおいては,一番高く商品を評価した入札者が,落札して商品を手に入れます.しかし,一般的にその商品の「共通価値=正しい価値」は,すべての入札者の評価額の平均値に近いと考えられ,一番高く商品を評価した入札者は商品を過大に評価しています.落札価格が実際の商品の価値を上回っている可能性もあり,このとき落札者は実際の商品の価値を知ったときに,それよりも高い価格で商品を買ってしまったと後悔することが予想されます.これを勝者の呪い(winner’s curse)と言います.

私が共通価値モデルの話で思い浮かべるのは,「群衆の智慧(ジェームズ・スロウィッキー)」の冒頭に出てくる「雄牛の重さ当てコンテスト」の話です.

1906年にイギリスの科学者フランシス・ゴールドンは,イングランド西部の見本市における「雄牛の重さ当てコンテスト」で,ある調査をしました.このコンテストは,800人の参加者が「雄牛の重さ」を推測し,一番正解に近い人が商品をもらえる,というものでした.コンテストの参加者800人の予測のうち,判読不能な13人を除き787人の平均値を調べた結果,その平均値は1197ポンドでしたが(※1),雄牛の実際の重さは1198ポンドで,ほとんど一致していたというものです.

この話は集合知=群衆の知恵の代表例として知られています.これはこれで面白くて話したいこともたくさんあるのですが,それはまた別の機会に.

さて,このコンテストが雄牛のオークションであったら,どうでしょうか? 牛肉1ポンドの価格はだいたい決まっているはずなので, 正しい雄牛の価格は牛肉1198ポンド分の「共通価値」になるはずです.そして,それは全員の予想の平均値とほぼ同じになります.しかしオークションを落札する人は,この雄牛の重さをもっとも重く予想した人になり,たぶんその人は落札後に勝者の呪いを持つことになるでしょう.

その商品の価値は一意に決まっていても不確実性があり,その価値を参加者が誤差を持って観察する場合は(ガウスを信じるなら),参加者の評価額は以下の正規分布のように分布するはずです.

参加者の評価額の分布

もっとも高い評価額は平均値=真の評価額よりも,必ず高いところにあります.もしセカンドプライスオークションの説明で述べたように,参加者が自分の評価額を正直に入札したら,落札者は必ず勝者の呪いを起こすことになります.

共通価値モデルのセカンドプライスオークション

このことから共通価値モデルでは「セカンドプライスオークションでは,参加者が自分の評価額を正直に入札する」ということは成り立たないことが分かります.合理的な入札者は,自分が勝者になっても勝者の呪いが起きないように,自分の評価額よりも低く入札を行うという結果が得られます.

※1 ゴールドンは実際は中央値を用いていたそうです(Wallis, 2014).

参考文献

  • James Surowiecki (2005) The Wisdom of Crowds, Anchor.(翻訳:ジェームズ・スロウィッキー (著), 小高 尚子(翻訳),群衆の智慧,角川書店).※この本は昔は「『みんなの意見』は案外正しい」という名前で出版されていました.こっちのほうが馴染みがありますよね.
  • Kenneth F. Wallis (2014) Revisiting Francis Galton’s Forecasting Competition, Statistical Science, Vol. 29, No. 3, 420-424.

ラジオで「オークション理論」を説明

今年のノーベル経済学賞「オークション理論」を説明するため,ラジオにインタビューで出演しました(5分くらい).番組内で流れます.セカンドプライスオークションについて,説明しています.
文化放送11月2日(月)午後8:00-8:30「長尾一洋 孫子であきない話」